大学での最先端医療、新島村での離島医療、実家での地方医療から得た学び。「かかりつけ医」とは患者さんの人生そのものを診ること

高島基樹 先生 インタビュー

たかしま内科クリニック
院長

髙島先生のご出身は新潟で、お父様が地元の開業医でしたね。

出身は日本海に面した柏崎です。刈羽原発のほか、海岸線計42㎞に及ぶ海水浴場が日本の渚100選に入ることでも知られています。祖祖父が当時の西山町(現在は柏崎市に編入合併)で開業し、父の代で隣町の柏崎に移転しました。つまり、医師の家系としては私で4代目ということになります。

先生が医師になられたのは、跡を継いで欲しいというご両親の希望もあったのですか。

私の進路について両親からは何も言われたことはありません。それでも小さい頃から開業医の父を見て育ち、憧れのようなものはありました。自分も将来は医療の道に進むんだろうなという気持ちは私には自然の成り行きだったように思います。

卒後、消化器内科の道に進まれたのも、お父様の影響でしょうか。

消化器の専門医だった父の影響も多少あったかと思いますが、当時の消化器内科教授の医学に対する姿勢に大変感銘をうけたことも大きいと思います。順天堂の医局では消化器領域のすべてを一通り学んだ後に、さらに臓器・領域別にグループ分けして専門性を磨くことになります。私の場合は「肝臓グループ」で研鑽を積みました。

初期研修を終えて、すぐにノースカロライナ大学に留学されたんですね。

当時の順天堂のなかでは、とても早い時期での留学だったと思います。これは当時の教授と現教授の勧めだったのですが、「留学の話があるが行ってみないか」という打診を頂いたときには、不安もありましたが何でも経験してみようと思い切って挑戦しました。大学院にも在籍していた私にとっては研究の延長のような感じでしたから、米国での論文でも博士号を取得しました。

2010年には新島での離島医療も経験されましたね。

赴任したのは新島村国民健康保険診療所という新島で唯一の診療所です。離島医療は東京都からの依頼で、各病院の持ち回り制だったのですが、たまたま順天堂の枠が回ってきて消化器内科が担当することになりました。単身赴任ですからなるべく若い独身者が望ましいのですが、周りはまだ大学院生が多いことから私が手をあげました。診療所は私のほかに自治医大と府中病院から各1名、合計3名の医師で運営していたので、3日に1回は当直勤務でした。透析患者さんがいましたので、土日も関係なく約半年弱の赴任中は不休での勤務でした。

大学病院とは規模も機能もまるで異なる離島医療の経験からは、どんな影響を受けましたか。

離島医療で得られた影響は私には結構大きかったように思います。大学ではより高度な医療を経験することに主眼を置いてきましたし、そこに何ら疑問も持ちませんでした。ところが、人口約3,000人の新島での泥臭い臨床は、私には苦痛どころか逆に楽しさを感じました。臨床と基礎研究の配分をバランスさせながらアカデミックなポジションを目指すより、一臨床医として人の役にたちたいという気持ちが大きくなったように思います。

自院開業を意識されたのは、何がきっかけだったのでしょうか。。

実家の父が脳梗塞で倒れたことが一番でしょうね。それが原因で3カ月間ほど実家のクリニックは休診せざるを得なくなりました。当時、私は練馬の附属病院に勤務していたのですが、父の容態を聞いて心配になり、大学での常勤勤務から退き週の半分ほど新潟に帰りクリニックを再開しました。周辺は田舎ですから都市部のようにクリニックは多くなく、地域には毎日の服薬が欠かせない慢性疾患患者さんが大勢いますから、皆さんの行き場を無くすわけにはいきません。東京・新潟半々の生活が3~4年続きましたが、移動を含めると休みは1日もありませんでした。私にはこのまま実家のクリニックを継ごうかなという考えもありましたが、過疎化が進む地域で20年後、30年後の将来像は描くことは困難でした。両親とも話し合い、クリニックは正式に閉院することとなりました。

そのときも大学に戻っては、というありがたいお誘いもいただいていましたが、私の関心や医師としてのやりがいはすでに地域医療にありました。現在の教授とも相変わらず良好なお付き合いをさせていただいており感謝の念に堪えませんが、引き続き週1回の練馬病院での外来を担当させていただきながら自院開業を決意しました。

開業までの数年間、他のクリニックで勤務されてきましたが、開業へのトレーニングの意味だったのでしょうか。

病院の外来とは違うクリニックでの診療スキルを磨きたかったのと、開業の準備資金を少しでも貯めたかったという意味もありました。

大学の外来では、医師との信頼関係よりも、順天堂に通院していることで患者さんは一定の満足感が得られたのではないかと感じますが、大学の後ろ盾を持たないクリニック外来は、担当医師個人の資質が大いに問われます。患者さんは医師の人物像で医療を評価しますのでより丁寧な対応が求められることになります。これがクリニックにおける医師と患者さんの距離感なのだと実感しました。

開業ではどこに先生の強みを発揮しようとお考えでしたか。

総合内科専門医として内科領域を広範に診られる「かかりつけ医」をベースに、とくに肝臓疾患に専門性が発揮できることだと思っています。順天堂を始めとする連携先との良好な関係もスムーズな紹介に活かせると考えています。

実際のクリニックの患者層と症状はいかがでしょうか。

開業からまだ1カ月余りですが、想定した通りに糖尿病、高血圧、高脂血症といった生活習慣病のほか、胃痛や腸炎などの消化器疾患、不眠症やアレルギー、ごく少数ながら子どもも来ています。当然肝臓疾患も多く、昨日は所沢からの来院がありました。その方はすでに複数の医療機関にかかられてきたご様子でしたが、専門医の目でしっかり診て欲しいということでウェブで当院を検索されたようです。

年齢層の基本は高齢者ですが、40歳代までの方も少なくありません。新型コロナの影響でテレワークの方が多いこととも無関係ではないでしょうが、生産年齢人口の生活スタイルを考慮して、診察時間を夜7時半までとしていることが奏功していると感じています。

先生の目指される医療を実現するために、スタッフに期待するスキルはどういったことでしょうか。

患者さんをよく観察して、当院に何を求められているのかを考えて主体的に行動して欲しいということです。私の指示や共通のマニュアルではなく、自身の感じたままにやっていただきたいと思っています。開業以来、LINE WORKSを掲示板のように院内で共有して、気づいた点があったら随時連絡を取り合っていますが、全員が本当によくやってくれていると感謝しています。常に不平不満はなく、前向きな意見が多く見られます。チームワークは確実に醸成されつつあると感じています。

開業日が5月11日。新型コロナウイルス対策に向けた緊急事態宣言による自粛は、開業の立ち上がりに大きく影響しましたね。

すごい時期での開業で、これはもう……、一生の思い出でしょうね(笑)。幸い、将来の院内処方の可能性を考慮して、受付の隣に処方室を区画してありましたので、そこに飛沫感染防止のフィルムを設置して受付や会計業務を行っています。また、来院時に発熱や風邪が疑われる症状を確認し、該当者には処置室で待機いただくようにしています。

非接触という意味では、キャッシュレス化も検討したいところですが、手数料がバカにならないことと、コード決裁は安全性も含めて入力と確認という手間が実際にどうなのだろうと少し躊躇しています。交通系カードのように機械にかざすだけであれば安心ですが。

非接触も含め、これからのクリニックの機能としてオンライン診療の検討も必要になってくるかと思います。その辺のご対応はどうお考えですか。。

Curon(クロン)はいつでも始められるように手続きを整えてありますが、スタッフの習熟度や電カルの運用にもう少しトレーニングが必要かなと思っています。この夏に「LINE ヘルスケア」のシステムが稼働し始めるという話がありますので、それを確かめてから具体的に考えようと思っています。ただ、オンライン診療を実施している開業医の友人に聞いたところでは、あまり相談数が増えず、採算面でランニングコストには見合っていない様子でした。
 また、「電話等を用いた初診料」の算定(214点)が新設され時限的に電話での初診が容認されましたが、さすがに見落としなどがあって後に責任問題に発展したときに内科医としてどうなるんだろうという危機意識もあります。実際に当院の受診者で「念のため」に当てたエコーで1カ月間に2例の肝臓がんが認められ、病院に紹介しています。

今回の開業では、弊社の加藤義光がサポートの実務を担当させていただきました。日本医業総研の開業支援についての率直なご意見をお聞かせください。

一つ確実にいえることは、自分一人では開業は不可能だっただろうということで、今回の加藤さんのサポートには本当に満足しています。この椎名町駅前の物件を探り出したのも加藤さんでした。家賃は少し高いですけど(笑)。開業準備では交渉事が多々生じますし、想定外のアクシデントも発生します。そうした時々の加藤さんの適切な対応は抜群だったように評価しています。他のコンサル会社だったら、はたしてどうだったかなと思います。

順天堂大学で語り継がれる「名医たらずとも良医たれ」を信条にされている先生は多くいらっしゃいます。それをベースにしたとき、髙島先生は良質な地域医療をどのように定義されますか。

本郷にある本院の名称は「順天堂大学医学部附属順天堂医院」です。もちろん特定機能病院なのですが、あえてクリニックに多い「医院」の名称が使われています。「名医たらずとも良医たれ」の本位とするのは、開業医のような小さな医療機関の地域医療貢献の心を持ち続けるという意味が込められていると聞きました。実際、順天堂はこれまで多くの優秀な開業医を輩出してきましたし、それを容認する土壌も持ち合わせています。

地域医療を定義づけるのは難しいのですが、私は患者さんの人生そのものを診ることではないかと思って診察しています。医学的に目指すアウトカムは一緒なのですが、その道程には個人差があっていいのではないかと思っています。その患者さんがこれまでどう育ってきたのか、どういう考えをお持ちで、今後はどうありたいのか、そうした個々の人生の背景を知り、汲み取っていくことから信頼関係が生まれてくると思っています。病院と違って一刻を争うような急性疾患は少ないので、クリニックという時間軸のなかで自分の裁量を発揮できることに醍醐味を感じるし、同時に医師としての人格やコミュニケーション能力が問われると思っています。

たかしま内科クリニック
院長 髙島基樹 先生

院長プロフィール

医学博士
日本内科学会 総合内科専門医
日本内科学会 認定内科医
日本消化器病学会 認定消化器病専門医
日本肝臓学会 認定肝臓専門医

2003年 順天堂大学医学科 卒業
  順天堂大学医学部附属順天堂医院 内科臨床研修医
順天堂大学医学部消化器内科 入局
2005年 米国University of North Carolina at Chapel Hill. Division of Gastroenterology and
Hepatologyへ留学
2007年 順天堂大学大学院消化器内科講座修了 博士号取得
順天堂大学医学部附属順天堂病院 消化器内科勤務
2010年 伊豆諸島・新島村国民健康保険本村診療所で離島診療に従事
2011年 順天堂大学医学部附属練馬病院 助教
2012年 一般クリニックで総合内科の研鑽を積む
2020年 たかしま内科クリニック 開設

Clinic Data

たかしま内科クリニック

内科 肝臓内科 消化器内科

東京都豊島区長崎1-2-8 KABURAGIビル1F

TEL: 03-3530-2323

https://takashimanaika.com

お問い合わせ