整形外科への興味は大学時代からでしょうか。
診療科の進路については、正直なところ何も考えてなくて、内科系・外科系といった大まかな考えも持ち合わせてはいませんでした。ただ実家に同居する祖母が膝の痛みを訴え、だったら私が治そうと……、まあ、とても短絡的ですけど(笑)。
病院に勤務されていて、開業というお考えはあったのでしょうか。
開業への意識は最初から持っていたように思います。というのも、私は大きな組織の歯車でいるのが苦手で、上司の命令や集団のルールに拘束されることに抵抗がありました。それともう一つ、急性期医療を担う病院では、治療の選択としてどうしても手術を重視する傾向がありましたが、私はいかに手術が必要なまでに症状を重症化させないか、また身体に負担の少ない保存療法で患者さんの苦痛を取り除きADLを回復させるかに重きを置くべきだと考えていました。世界で初めて無痛手術を可能にしたカテーテルの開発も、病院勤務の多忙な合間を縫っての取り組みでした。もっとも、整形外科医でありながら、手術があまり好きではなかったというのも問題ですが(笑)。
手術のことはさておき(笑)、保存療法の粋を尽くすというのは十分に開業の大義になると思います。その保存療法について、もう少し具体的な先生の強みをお聞かせください。
強みとするのは、エコーを用いた診断・治療と、肩関節疾患への高度な手技によるアプローチです。エコーを用いる整形外科医はまだ少数だと思われますが、レントゲンでは捕捉できない肩関節の腱板損傷や足関節の靱帯損傷などの特定で的確な診断ができるうえに、エコーガイド下での神経ブロックや関節内注射などピンポイントで狙うことが可能です。特にブロック注射はそれまでの医師の経験則に基づくものに比べ、治療業績が格段に上がったと感じています。肩領域にいついては、大阪ショルダーチーム(大阪市立大学肩関節グループ)にエコーに対する情熱を認めていただき、メンバーの一員として研鑽を積んできました。そのメソッドは、他に負けないという自負があります。
クリニックを開業し改めて気づくのは、医師と患者さんの治療方針に対する考え方の違いです。これには医療特有の情報の非対称性があるのかもしれませんが、手術への抵抗感は高齢になるほど強くなる傾向があります。それだけに、身近なクリニックが保存療法の質を極限まで高め続けなければならないと感じています。
私自身も50肩の痛みではずいぶん苦しんだ経験があって、半年以上もの間、仕事に大きく支障をきたしました。
特発性拘縮肩に対してはサイレントマニピュレーションで確実に痛みをとり、2週間程度で可動域はほぼ健常な状態に改善できます。当院にはサイレントマニピュレーションを研鑽した理学療法士が常勤していますから、治療後の継続的なリハビリでもエコーを用いています。当院の保存療法でも寛解が困難と判断される場合は、先の大阪ショルダーチームとの連携を図り、外科療法や侵襲で術後の痛みも少ない肩関節鏡下手術など最先端治療を紹介するケースもあります。
特に宣伝をしているわけではありませんが、患者さんには、兵庫、徳島、鹿児島、さらに東京からの受診者もおられます。痛みを必ず取る―、それだけでもかなり広域から患者さんに来院していただいております。それは、治癒しない痛みに苦しんでいる人がどれほど多いかを表していると実感しています。
「痛み」の症状については、かなり広域にカバーできると理解していいのでしょうか。
他の疾患としては、リウマチのほか、働き盛りの男性に多いのが頚椎椎間板ヘルニアです。この場合でも、エコーガイド下での神経根ブロックが有効です。まずは痛みを発生させる炎症を一気に抑え、日常の仕事に復帰させてあげることを優先します。それでも筋力の低下や歩行障害などが持続する場合は、MRI検査の後に外科的治療を選択するかどうかの話し合いを行っています。
クリニックのホームページを拝見すると、先生と並列で理学療法士の皆さんが写真入りで紹介されています。整形外科はクリニックのなかでも特に多職種チームの連携が大切になりますが、そこで実践されていることは何でしょうか。
医療スタッフに必ず守っていただきたいのは、患者さんに常に寄り添い、優しさを何よりも大切にして欲しいということです。患者さんは個々、「痛い」「身体が思うように動かない」といった悩みから、ADL、QOLともに低下されている方です。それを、通り一遍のお座なりな対応で数を診ることを私は承服しかねます。医療の質に対するこだわりは採算など度外視でいいと思っています。理学療法の目的も「治す」ことにありますから、そこに緊張感をもって欲しいと思います。ここはリラックスする場所ではなく、疾患を治す医療機関なんです。ですから、「凝っているから揉みほぐして」という方に対しては、ここは整骨院ではないからとはっきりお断りしています。痛みがある部分を揉んでも炎症がひどくなるだけで、痛みが増悪することはわかりきっていますから当院では行いません。
また、毎週火曜日に昼食を兼ねた理学療法士との勉強会を実施しています。現在は学会発表に向けたデータを皆で収集していて、論文の読み合わせを全員で行っています。私自身、整形外科のことしか分かっていなかったのですが、勉強会で理学療法への理解が深まり、それが保存療法の質向上にもつながっています。開業してからの方が、現場での知識も経験も明らかに増えたことを実感しています。
今回の開業では、当社の山下が先生をサポートさせていただきました。コンサルタント選びの視点と、実際のコンサルサービスをどう評価されていますか。
当初はゆっくりと田舎で開業したいなどと考えていて、市立柏原病院の近くなどでできたらいいかなと思っていました。コンサル会社とは4社ほど面談をしたのですが、「それは止めた方がいい」ときっぱり否定されたのは山下さんだけでした。周りからヨイショされるのが嫌いな性格で、対等に意見をぶつけ合える人をコンサルタントに選びたかったことが前提にあったので、もっとも商売っ気の感じられない(笑)山下さんにお願いすることにしました。
希望立地を白紙にリセットしたものの、立地選定では山下さんは相当苦労されていました。住吉区での開業は、土地勘がないこともあって、正直なところまったく想定していませんでしたが、山下さんが付き合いのある業者さんのルートを駆使してこの物件に辿り着きました。大型のドラッグストアが入居する建物ですが、屋上の駐車場を自由に使うことができます。車を日常の足としている住民が多く住むエリアですので、整形外科クリニックとして、そのメリットは十分に享受できています。結果的には大正解でした。
内覧会も盛況だったと伺っていますが。
ドラッグストアの協力もあって、内覧会は初日約200人、2日目も約180人にお越しいただけました。一般的な告知の他、講師の依頼を受けた市民健康講座の開催告知チラシの片面にも開業を案内させていただきました。この講座は山下さんからのアドバイスもあって開業直後も実施し、約70人の方ご参加者いただきましたが、地域の口コミもそのセミナーからスタートしたように感じられます。
開業は良好に立ち上がったようですが、5カ月経っての現在の患者数と、一般外来・リハビリの内訳をお聞かせください。
1日平均120人前後でしょうか。多い日で150人になります。新患も1日30人前後で推移していますが、住之江や熊取、大阪府北部の茨木、豊中といったエリアからが多く、総合病院からの紹介も増えています。診療の内訳は、概ね外来7に対してリハビリが3といった割合ですが、すべての患者さんについて私が診察しています。それと、午前中より午後、特に夕診以降に来院される40代、50代の方が多く、逆に高齢者比率が低いことも当院の特徴です。幸い新型コロナウイルスの影響による減少が限定的なのは、患者さんが「治す」ことを中断して、症状を悪化させたくないという意思の表れだと思います。通院していれば、必ず結果が出せることを、キチンとした診療を続けてきたことで理解されたのだと思っています。
経営への手応えのようなものは感じてらっしゃいますか。
それが、経営と言われるとどうも苦手で(笑)。もちろんレセプトチェックなどに怠りはありませんが、数字のことを考えると医療に集中できなくなってしまうんです。これでは本当はいけないんでしょうけど……。でも現在提供している医療サービスから逸脱せず、さらに質を高めていけば、自ずと数字はついてくるのではないかと思っています。私の医院経営者としての満足度はそこにあるし、絶対に失敗しないことを確信しています。
しみず整形外科
院長 清水勇人 先生
院長プロフィール
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定リウマチ医
Johnson & Johnson認定肩関節外科医
大阪市立大学 肩関節グループ(大阪ショルダーチーム)所属
2010年 奈良県立医科大学 卒業
奈良県立三室病院(初期研修)
2012年 石切生喜病院 整形外科
2013年 大阪市立総合医療センター 整形外科
2014年 大阪市立大学附属病院 整形外科
2015年 長吉総合病院 整形外科
2018年 長吉総合病院 整形外科 リハビリテーション科部長