クリニックの特徴の一つとなっている摂食嚥下ですが、消化器外科で勤務されてきた先生と嚥下との関わり方から教えてください。
「摂食嚥下」との出会いは、アメリカ留学から帰り、千葉社会保険病院(現、JCHO千葉病院)に勤務していた時期になります。外科医としては、肝胆膵も含めた消化器全般の診療をしておりました。一方、患者さんの栄養を全般的にサポートするチーム医療にも取り組んでおりました。その取り組みの中で、嚥下障害への対応の必要性を痛感し、「摂食嚥下」に興味をもつようになりました。経口摂取に問題がある方に、経管栄養や中心静脈栄養などの代替栄養を行って、栄養状態を改善あるいは維持したとしても、結局は経口摂取が出来ないままという本末転倒な状況があったからです。その当時は、摂食嚥下の評価(診断)は手つかずの状態で、嚥下体操の一部を指導していたぐらいでした。
その後、その当時、腎臓移植と膵移植で国内有数の業績を誇る千葉東病院に移りました。そこでは歯科の先生方が嚥下造影などの診断と治療としての嚥下訓練の指導を行っておりました。異動直後、歯科の先生方とともに一般病棟での摂食嚥下サポートチームを立ち上げました。そのチーム医療を通して、嚥下造影、嚥下内視鏡(診断)や嚥下訓練(治療)を習得することができました。嚥下機能の診断と治療を目的とした計画的短期入院のシステム(嚥下クリパス入院)の構築や嚥下外来の立ち上げも行い、今から思うと、当クリニックで嚥下診療を行うにあたってのノウハウを、すでに経験していたと感じています。千葉東病院での経験がなければ、当クリニックで行っている誤嚥予防を目的とした嚥下診療(診断と治療)は無かったと思います。
そのころから、すでに開業を意識されていたのですか。
千葉東病院への異動時には、手術場に立ち続けたいという気持ちが強く、開業は全く考えてはいませんでした。4年ぐらい経った頃でしょうか、千葉東病院で定年を迎えるイメージが描けなくなり、そのままの将来に不安を感じるようになりました。年齢を考えると条件の良い新天地はないので、「開業」という言葉が頭を巡るようになりました。2017年6月末で千葉東病院を退職し、若い頃にバイトでお世話になっていた東船橋病院に、同年7月から翌3月末までの9カ月間、内科医として勤務させていただきました。東船橋病院は脳神経外科領域に定評があり、リハビリにも力を入れております。脳血管障害後の摂食嚥下障害に対する需要から、言語聴覚士(ST)の人員も充実しておりました。赴任させていただいてから、千葉東病院でやっていた嚥下造影と嚥下内視鏡を導入し、嚥下機能の診断と治療を目的とした計画的短期入院のシステム(嚥下クリパス入院)も導入させていただきました。東船橋病院とのご縁がなかったら、クリニックレベルで嚥下診療を提供できるシステムが構築できなかったと感じております。誤嚥性肺炎をすでに起こしてしまった方は東船橋病院に入院していただき、肺炎が軽快したら嚥下障害の治療を行い、当クリニックは誤嚥予防を目的とした嚥下診療に専念するということになります。開院後も、東船橋病院でも診療をさせていただいております。
北習志野メディカルプラザでの開業について、最初からこのエリアでの開業を想定されていたのですか。
いいえ、そんなことはありません。歳を取っていたので、最初は承継案件を探していました。落下傘開業にはなりますが、総武線エリアで実家(高齢両親健在)のある柏に近いとなると、船橋あたりかなという漠然とした地域設定しかしておりませんでした。紹介いただいた承継物件はいずれもマッチングしませんでしたが、そのうち実際に現地に足を運んだのが4件あり、最初の2件が北習志野~高根木戸エリアの物件でした。現地を訪れてみると、人の往来が多く、以前バイトにきていた東船橋病院や共立習志野台病院が近い距離にあることを再確認することができ、いい場所だなという印象を強くもちました。承継物件はミスマッチばかりだし決して手頃な価格ではないので、新規開業の方がやりたいことができるかなと思い始めていた矢先のことでした。医院経営塾の参加で知ることとなった、医業総研の小畑さんから紹介いただいた承継物件をお断りしたのが(嚥下診療には不向きな立地条件のため)、千葉東病院退職1カ月前の5月29日でしたが、その直前に東船橋病院にお世話になろうと先方に連絡を取っていたこともあり(面談予定は6月7日)、「高根木戸あたりで新規開業の物件ないですよね」と呟いたところ、北習志野メディカルプラザの話をいただきました。当初は、コンサル料に抵抗感を持っていましたが、お話をいただいた途端プライスレスと考えが変わり、その後はとんとん拍子に決まったという経緯です。今から思うと、最初から「北習志野」に導かれていたような気もします。
今では患者さん本位の望ましい連携が形成されていますが、北習志野メディカルプラザのお話がなかったら、それも叶わぬことだったと感じております。
内科全般を診ながら、消化器の上部内視鏡、特殊診療として摂食嚥下という専門性の高い医療を提供するうえで、もっとも重視することは何でしょうか。
かかりつけ医として地域貢献を目指すには、住民の方々に安心して受診いただくための環境作りが大事だと考えています。そのために、スタッフ一人ひとりがチーム医療の一員であるという自覚を醸成させなければなりません。患者さんのなかには、私に言えないことを看護師に相談することもあるでしょうし、受付や電話応対での気づきもあるでしょう。風通しの良い職場環境が前提にはなるでしょうが、私と看護師、受付事務の三者の連携を密にし、常に情報共有される体制を構築していきたいと思っています。
嚥下診療に関しては、連携を密にとらせていただいている東船橋病院の協力を得て、STにも嚥下診療に参加していただき、その専門性を発揮していただいております。嚥下機能検査(診断)に基づき、患者さん個々にオーダーメイドの嚥下訓練(治療)を提供するよう心掛けております。
具体的に実行されていることは何でしょうか。
幸い看護師、受付事務ともに優秀なスタッフを採用することができましたが、問題が起きたり軌道修正する必要が生じた時には、全員と面談して(最終的には)不満がないかどうか見極め対応するようにしています。また、医院経営塾の講義に倣って毎日朝礼を実施し、全員で診療コンセプトの読み合わせを行うようにしています。もちろん、最初から理想の姿を求めるのは無理ですが、風通しの良い職場であり続けるよう努力しております。看護師とは診療スタイルで一致した考えを共有しております。受付事務スタッフは未経験者が多いので、レセプトに関しての問い合わせ先を開院当初から複数確保いたしましたし、医療用語に慣れてもらうための工夫(勉強会や入門書などの常設)を、今後も行っていく予定です。
開業から約一月ですが、手応えのようなものは感じられますか。
まだ患者数は多くはありませんが、数値的には事業計画をやや上回るものと思われます。内視鏡や超音波、嚥下造影、嚥下訓練の予約が当初より入っていることも、プラスに関与していると思います。経鼻内視鏡は苦痛もなく患者さんにも好評ですし、何よりも咽頭・喉頭の観察も同時に行えるという強みがあります。また、慢性疾患などの一般内科のみならず、外科処置で来院される患者さんもおられ、幅広い領域の診療を行っていることが周知されつつあるかなとも感じます。
誤嚥(咳嗽反射があり肺炎には至っていない)の患者さんを、関連施設である東船橋病院に、嚥下機能の診断と治療を目的とした計画的短期入院のシステム(嚥下クリパス入院)で加療したケースも経験しております。クリニックレベルでも、可逆的な誤嚥性肺炎も関連病院との連携で対応可能である、というモデルケースになるとも考えております。
誤嚥性肺炎は知っていても、誤嚥予防の嚥下診療はほとんど周知されていません。現役である限り当クリニックで誤嚥予防を目的とした嚥下診療を続けようと考えておりますし、今後志を共有する仲間を増やして、一般の方々に対しても摂食嚥下の理解・普及に取り組んでいきたいと思っています。
はせがわ内科外科クリニック
院長 長谷川正行 先生
院長プロフィール
1987年 国立山梨医科大学医学部(現、山梨大学医学部)卒業
千葉大学医学部附属病院 第二外科(現、食道胃腸外科)入局
千葉大学医学部附属病院、川崎製鉄千葉病院(現、千葉メディカルセンター)、
公立長生病院などで勤務
1998年 医学博士学位取得
1999年 米国ハーバード大学医学部Cancer Cell Biology留学(客員教授)
2002年 千葉社会保険病院(現、JCHO千葉病院) 外科部長
2012年 国立病院機構千葉東病院 外科医長
2017年 千葉秀心会東船橋病院 内科
2018年 はせがわ内科外科クリニック 開設