Q ご実家が歯科クリニックとのことですが、酒井先生が医師を目指されたのも、その影響を受けてのことでしょうか。
A 親族にも病院経営をはじめ医療に関わる人が多かったのですが、私自身に特に強い動機づけがあったわけではありません。科学分野としての人体には多少興味がありましたが、医師になったのは自然の成り行きです。ただ、私のなかにあった医師のイメージが手術医だったので、消化器外科に進むことに迷いはありませんでした。医局の雰囲気も良かったのですが、何よりも手術自体が好きでしたね。
Q 順天堂での研修後も大学に残り関連病院への出張を経て戻られたわけですが、常に消化器外科の最先端におられた先生が、クリニック開業に向かわれた動機は何だったのでしょうか。
A それが、開業を意識したことはまったくありませんでした。ただ、大学で勤務していると臨床以外の仕事が年々積み上がってくるわけです。頻繁に行われる会議も病院を運営するうえで不可欠な業務なのですが、その時間、私には患者さんとの距離が遠ざかるようなギャップを覚えました。大学への不満ではありません。外来から手術、寛解まで患者さんに寄り添うのが主治医のあり方だろうと思うし、私自身がそういう医師でありたいと考えた結果が開業という選択につながりました。開業ありきではないんですね。同じような思いで開業される先生も多いのではないでしょうか。
それともう一点あげるとすれば、大学病院勤務医として追い風に乗るように順調に過ごしてきて、このままで医師人生を終えてしまうのは面白くないという思いです。父は歯科開業医、義父も医科開業医です。父たちがかつて経験してきたであろう苦労を味わい、医業経営者としての生き方を共有するのも悪くないと考えました。
Q 開業のコンセプトや、医療提供上の強みをお聞かせください。
A 消化器外科のキャリアを最大に発揮できるのは、大学病院と同等の精微な検査と、ポリープ切除術など日帰り可能な外科手術だと考えますが、消化器領域におけるプライマリケアの視点では、定期的な検査の重要性を啓蒙していこうと思っています。多くの生活習慣病は食生活の改善などで一定の予防が期待できますが、消化器のプライオリティは何よりも早期発見です。そのため、内視鏡を使った検査・治療では、患者さんの苦痛を最小限に軽減する配慮にも心がけています。開業からまだ2ヵ月足らずですが、そうした私の考えが少しずつ浸透しつつあるように感じられます。現在の患者さんの中心は消化器ですが、痔や肛門周囲膿瘍などの肛門診療もカバーできますので、そろそろその領域も増やしていこうかと思っています。
Q ところで、日本医業総研との接点はどこにあったのでしょうか。
A 開業を考え始めたころ、自宅から近い隣駅の「要町」で目に留まった物件があったのです。地元で評判の高い整形外科(岡本整形外科/岡本重雄院長)が1Fから同ビルの3Fに増床移設することで、募集が出ていました。内装はクリニック仕様の造作ですから、内装費もある程度合理化できるのではないかと考えました。同じ1Fには眼科が開設されていて、こちらも流行っているようです(要町やまもと眼科/山本禎子院長)。そこで調べてみると、両クリニックともに日本医業総研が開業をサポートしたとのことで、同社のウェブサイトに問い合わせたのがきっかけとなりました。いずれコンサルタントは必要になるだろうと思っていましたので、同社の実績や方針を伺いサポートを依頼することになりました。担当は、実績豊富で物件にも強そうな小畑吉弘マネージャーです。
要町の物件は、ビルオーナーをよく知る小畑さんに交渉窓口に立っていただいたのですが、大手コンビニからも出店希望の手が上がり、小畑さんの交渉力を以てしても賃料の折り合いが付かず断念することになりました。コンビニ相手ではさすがに敵いません。その後、やや候補エリアを広げて物件を回り検討してきましたが、そうしたなかで入手した情報が今回開業した新築ビル2Fの医療モールです。小畑さんの作成した事業計画でも十分な採算性が見込まれましたが、私の中ではほぼ即決でした。広さも約60坪ありますから、機能上も十分な広さが確保され、患者さんに圧迫感を感じさせない空間になっています。
Q 内覧会には500人以上の方が集まったようですね。
A 駅前の建物だけに、建設中から何ができるのか注目されていたようです。足元人口自体も多いのですが、専門性の高さが特徴ですので、小畑さんの配慮でやや広域に開業を告知したのが奏功したようです。周囲に消化器の専門クリニックがないので、もの珍しさもあったのでしょう。高齢者も多い地域だけに、病院に代わる身近な受け皿に対する期待のようなものが感じられました。
実際に当院で初めて消化器の検査を受けられたという方も多く、病院受診に対するハードルを実感することになりました。まずは、こうした検査未経験者の最初のアクセス先として認められることですね。
Q 開業されてからの外来のスタイルは大学病院時代とは変わりましたか。
A 基本的なスタイルは何も変わりません。勤務医時代から患者さんの訴えに傾聴し、丁寧な対応に心がけてきました。消化器外科は日常的にがんと向き合います。その際に患者さんやご家族への告知は避けられないのですが、キチンと丁寧に話すことが患者さんの理解と受容につながり、治療に積極的に協力いただけることは経験のなかから学びました。専門的な医療用語は、いたずらに患者さんの恐怖心を煽るだけです。同じ目線の高さに立ったコミュニケーションは開業した今もそのまま続いています。
Q 開業後、まだ間もないのですが、勤務医時代と比べて私生活も含めた変化はありますか。
A それが仕事が好きなんで、何も……(笑)。勤務医時代と違い、規則的な生活で早めに帰宅できるようにはなったのですが、子どもたちからは「当直行かないの!?」とどうやら煙たがられているようです(笑)。もう少し余裕ができたら、昔好きだった渓流釣りに無理やりにでも子どもを連れ出して行こうかな、と(笑)。
Profile
院長 酒井康孝 先生
Noritaka Sakai
医学博士
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医指導医
日本食道学会認定医
日本がん治療認定医機構暫定教育医認定医
1993年 順天堂大学附属順天堂医院 外科研修医
1995年 順天堂大学第一外科講座
《関連病院》
医療法人愛仁会太田総合病院
越谷市立病院
順天堂静岡病院
東京都保険医療公社東部地域病院
2001年 越谷市立病院外科医長
2003年 順天堂大学上部消化器管外科学講座
2017年 千川胃腸内科外科クリニック開設