垂水区は神戸市市街地の西端に位置する行政区で、須磨区、西区、明石市に隣接しています。戦後、都市化が急速に進みJR線、山陽鉄道などの公的交通機関が整備され、平成10年に開通した明石海峡大橋の起点となったことで淡路や四国との文化的・経済的交流の活性がなされてきました。総人口は22万人弱で、これは神戸市総人口の約15%を占める割合となっています。高橋クリニックは、古くからの戸建て住宅が建ち並ぶ住宅街の一角にあった元メガネストアを借り受け、平成26年12月大幅にリニューアルして開業しました。
■医師キャリアは消化器外科からのスタートということですか。
学生時代から手術には興味がありました。一方で、将来は開業したいという気持ちもあって進路は消化器内科か消化器外科、放射線科で悩みました。そんなとき先輩指導医からの、「外科にいけば、内科のことも覚えるから」という言葉が気にはなったものの、実際には二束のわらじを履くなどは到底不可能で、キチンと内科を学ぶにはいずれは転科しなければと感じていました。
■特に外科に不満があったということではないですよね。
一般的な消化器疾患における外科は、内科的な治療での根治が困難な患者さんを引き継ぎ、治療後にまた主治医に戻すのが通常です。もちろん、患者さんだけではなく内科医からも頼られる分野だけにやりがいは大きいのですが、もっと患者さんと近い距離で同じ目線に立った医療がしたいと強く思うようになりました。それができる選択は内科ということになり、開業志向はその延長線上にありました。
■出向先の徳洲会病院で平成23年から内科に移られましたが、医療機能の違い以外に感じられたことは。
開業を目指すという理由に理解をいただき、外科からの出向という形で、内科の勉強をする機会を与えていただいた、関西医科大学外科学教室、および神戸徳洲会病院には本当に感謝しています。
神戸徳洲会病院でいざ内科を学んでみると、病巣の状態をピンポイントで見立てて治療にあたる外科と比べ、あらゆる可能性を想定したエビデンス重視の細やかな医療が実践されていることがわかりました。言葉に表すのは難しいのですが、外科医の経験に基づく感覚的な診断との違いといってもいいかもしれませんね。
■日本医業総研のサポートを受けることになったきっかを聞かせてください。
わたしの兄が参加している企業経営者を対象とした経営塾を通して日本医業総研のことを知っていたことがきっかけです。
正直なところ、それまで医療だけに専念してきて経営についてはまるで不勉強でしたから、開業といっても何からどう手をつけたらよいものか手探り状態でした。日本医業総研は身内の紹介ということの安心感もあり、開業実績についても申し分ありませんでした。担当の猪川さんとの面談を重ねるなかで、この人ならば全幅の信頼がおけると感じました。
■日本医業総研のサポート内容をどう評価されますか。
まずは開業へ向けた基本方針を双方で確認したうえで、診療圏調査から事業計画、物件選定、施設設計、資金調達までほとんど猪川さん主導で進みました。
開業準備のたいへんさは覚悟していましたが、一つひとつのプロセスを経るなかでその重要性への理解はさらに深まりました。いくつもの物件に対して綿密な診療圏調査を行い、その結果から事業計画を策定する。開業後をイメージした事業シミュレーションを行い、そのなかから実現の可能性を探り出し、丁寧に裏付けをとっていく。数多くの経験と実績から発せられる意見には説得力が感じられました。そういう意味での猪川さんの仕事の確かさは、開業後の立ち上がり時期に顕著に表れたことで証明されましたし、数字だけではなく、わたし自身が思い描いていたとおりの医療提供も実現できています。
開業準備は多忙な勤務医が、片手間にやるのは現実的に不可能といっていいでしょう。わたしたち医師は医療が専門です。開業準備に関するあらゆる事項について未経験であり、つまりは素人です。昨今の医療行政を鑑みたとき、いかに緻密な事前準備が必要かを実感します。これから開業をされる先生も良いコンサルをみつけることをお勧めします。ちょっとPRしすぎですかね(笑)。
■開業準備中に苦労されたことは。
開業物件の決定までにはかなりの時間を要しました。物件を比較検討する以前に物件自体がないんですよ。自宅に近く、お世話になった神戸徳洲会病院との良好な関係も維持していきたかったので、垂水区でということが前提でしたが、人通りの多い駅周辺は既存のクリニックや医療モールなどが充実しており新規開業の余地を残していませでした。
そのためテナント開業を諦め、郊外住宅地の建て貸しに絞って物件をあたってもらいました。いくつかの物件を紹介していただいたなかで開業できた物件は、元メガネストアだったようですが一般の賃貸物件情報として扱われていなかったことから、地主さんとの直談判を繰り返した末にようやく契約することができました。結果として焦らずに粘って待ったことが正解でした。
■開業では何を診療の強みとしていくことを目標に立てられたのでしょうか。
専門性を活かすという意味では消化器内科・外科を標榜し上部内視鏡検査の設備を整えました。
垂水区の住宅地という立地柄、診療の対象患者さんが、高齢者の慢性疾患の方が中心になるという判断から、専門外ではありますが整形外科でも使用するウォーターマッサージベッドや腰痛牽引器、干渉低周波治療器などのリハビリテーション機器を導入しました。
治療方針として大切にしていることは、勤務医時代からの思いだった患者さん目線での医療の実践です。わたし自身、コミュニケーション力が強みだと思っていることもありますが、患者さんの疾患だけではなく、生活背景にある些細な事象や悩みにも丁寧に応えていくことが高齢者医療の理想的な姿だと思っています。個別対応の時間的な制約はありますが、患者さんにできるだけ安心していただけるような心配りをしていきたいと思っています。
■安定的に患者数を伸ばされているようですが。
損益分岐は比較的早く、開業後4ヵ月目でクリアしました。早い期間で地元に認知されたのは、立地によるところが大きいと思います。
垂水駅からの交通手段はバス便になりますが、敷地前面のバス通りは地域の生活動線でもあり、日常の買い物を満たす「コープこうべ」にもほぼ隣接しています。駐車場が12台分も確保されていることからも、高い利便性が奏功したと考えています。
8ヶ月経った現在の患者数は1日平均で約40人、多い日で60人を超えます。慢性疾患の通院患者さんはかなり定着してきましたが、新患に対してはまだ十分なキャパシティを残していると思っています。
■地域医療連携への取り組みは。
地域医療における医療提供の適性化の流れは認めますが、在院日数の減縮だけを目的化する制度改定にはやや疑問を感じています。
とはいえ、患者さんの退院を促すことは、クリニックの需要が増えることにつながりますから継続的な医療提供のためにも地域連携は重要だと思っています。特に老老介護の多いこの地域では、福祉も含めた在宅への対応が課題となると思われます。残念ながら当院での連携は手つかずに近い状態で、これからの取り組みになります。現在のところは、訪問看護ステーションからの要請を受けて、週1回高齢者居住施設への訪問診療と一部の患者さんを在宅で診ています。
■開業による先生ご自身の日常に変化はありましたか。
専門医として「おきまりの処方」ではなく、年齢・性別・体型・併存症など患者さんの個別性に配慮した“微妙なさじ加減”を大切にしています。薬は必要最小限に、というのが基本姿勢です。
服薬指導等についても調剤薬局任せにはせず、診察前に看護師が個別に服薬の状況、他院の処方薬、飲みやすさ、副作用、残薬の状況などを聞き取り、処方調整に活かしています。
糖尿病診療におけるクリニックの役割は、重症化や合併症を防ぎながら患者さんがよい状態を長く保っていくお手伝いをすることです。患者さんにとって治療を継続することの負担は少なくありませんが、糖尿病の治療はマラソンのようなものだということを理解していただき、クリニック全体として患者さんを支えていきたいと考えています。
■日本医業総研の開業後のサポートはいかがですか。
経営者でありながら、細かな数字を管理するのはどうも苦手なもので…(苦笑)。
開業後も引き続きコンサルにあわせて税理士法人日本医業総研に会計顧問をお願いしています。クリニックの経営面での評価は毎月の月次試算表に示され、当初事業計画の数値は十分にクリアできていますので、わたし自身はまずまずかなと思っていたのですが、猪川さんは毎月事業計画を上方修正してハードルを上げてくる(笑)。経営の安定には一定の余裕が必要なことはわかりますが、頼もしい支援の反面、よい意味のプレッシャーも感じています。
高橋クリニック
院長 高橋完治
診療科目
消化器内科・外科
住 所 兵庫県神戸市垂水区東垂水町字菅ノ口707 〒655-0881
TEL 078-751-8080
http://www.takahashi-cl.info
院長プロフィール
平成9年 関西医科大学卒業、同大学第一外科に入局
以後、関西医科大学附属滝井病院、同枚方病院、武田総合病院、神戸徳洲会病院等で臨床経験を積む
平成23年 神戸徳洲会病院で内科医として勤務、内科全般と救急医療に携わる
平成26年 高橋クリニック開院
医学博士
日本外科学会 専門医
日本プライマリケア連合学会 認定医・指導医
日本がん治療認定機構 認定医
日本医師会認定産業医