今年5月、奈良県の生駒市にまつやま整形外科クリニックを開業した松山悦啓院長。診療所はにぎや かな表通りに面し、緑色を基調にしたさわやかな外観が目を引く。大げさな宣伝は行っていないが、開業後間もなく1日平均患者数40人以上を達成。地域住民 に専門性の高い医療を提供することで、口コミによる支持を集めている。
医師の動線に気を配り診療時間の効率化に成功
■開業のきっかけ、いきさつを教えて下さい。
私の親族はほとんど開業医なのですが、私自身は、「いつか開業したい」という強い意志をもってい たわけではありません。ただ、脊椎外科の専門医として年齢を重ねるうちに、体力も限界に近づいてきたかなと思い始めたのです。何しろ、病院勤務医時代は手 術などで4、5時間立ちっぱなしというのが当たり前でしたからね。それで覚悟を決め、開業に踏み切りました。
日本医業総研さんにコンサルティングをお願いしたのは、弟が開業に際してお世話になったという経緯からです。弟の開業の様子を見ていて、お任せしても大丈夫だと確信しました。何も知らない状態からのスタートでしたので、頼れるパートナーが必要だったのです。
■開業するなら自宅に近い場所を、との希望があったそうですね。
開業前に勤務していた病院が電車で片道1時間の距離にあり、かなりのタイムロスを感じていました。時間的なゆとりをもつためにも、自宅近くが最適だと思い、その近辺で候補地を探すことにしたのです。
整形外科の場合、ご高齢の患者さんが大きなウエイトを占めます。ですから、目につきやすい大通りに面し、テナントビル1階にあってバリアフリーにでき、駐車場も多く確保できるという立地が不可欠でした。今の場所は、このいずれの条件も満たした理想的な環境ですね。
■しかしテナントの場合、スペース的な制約も多いのでは?
確かに、思うように壁を取り払えなかったり、部屋の中央部に配管が通っていたりと、レイアウトにはいろいろと苦労しました。そういうなかで設計士さんと密に打ち合わせしながら、50坪ほどのスペースを有効活用することに成功したと思っています。
最も気を使ったのは、医師である私が効率的に動ける動線。必要な時にさっと移動できるよう、診察 室、リハビリ室、レントゲン室の間をスムーズに動ける配置にしました。各室を近接させることで、患者さんには常に医師が近くにいるという安心を感じていた だけます。同時にプライバシーへの配慮も重要と考え、開いたドアを目隠しの仕切り代わりに活用するなど、細かい工夫も施しました。 医師は今のところ私1人ですが、診察室は2つです。片方で診察しながら、もう一方で次の診察の準備ができるので、診療時間の効率化に役立っています。
ソフト面の充実を図るべく業務のマニュアル化を検討
■松山先生が目指す医療とは?
開業医になっても、勤務医時代と同等の医療を提供したいと思っています。脊椎専門医としての特色 を地域でも発揮していけたらいいですね。当院には、クリニックではなかなか見られない「X線骨密度測定装置」があります。5分程度の所要時間で骨密度の様 子を視覚的に確認できるシステムなので、より精度の高い診断・治療判定が可能になっています。
もちろん、病診連携体制も整えており、MRI検査等は奈良県立医科大学の関連病院にオーダーしています。ここは私の母校でもあり、周囲の病院には同大卒の整形外科医もたくさんおられますので、比較的連携が取りやすいですね。こうした点も現立地のメリットです。
■今後の改善点や取り組みたいことを教えてください。
開業して思ったのは、建物などのハード面より、人材などのソフト面がとても重要だということです。実は最初に採用したスタッフの何人かが未経験者だったこともあり、電子カルテの操作研修が難しくてついていけないと辞めてしまったのです。
後で考えると、操作研修をやらなくてもカルテを運用できる仕組みがあったのに…。ただ、この時の経験はよい教訓になりました。これからは、スタッフが気持ちよく働けるよう、業務のマニュアル化なども検討していこうと考えています。
松山 悦啓(まつやま えつひろ)先生
ご経歴
1982年、奈良県立医科大学卒業。同大学整形外科をはじめ、国立病院機構奈良医療センター、大阪府松原市立松原病院、奈良県天理市立病院、医療法人医仁会平井病院に勤務。2008年5月、52歳でまつやま整形外科クリニック開業。
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医。