オフィスビルが並ぶ大阪市北区の大阪都心エリアに、昨年11月向井メンタルクリニックは開業しま した。「『こころが疲れた』ときにお越しください」と話す向井泰二郎院長の思いを形にした “癒しの空間”は、ビルの10階という立地にもかかわらず開業当初より順調に患者数を伸ばしています。
患者が安心できる快適空間
入りやすさとインテリアにこだわった「快適空間」を実現
■知り合いのいない地域でゼロからのスタートとお聞きしましたが。
長年、近畿大学医学部の精神神経科に勤務しておりましが、自分の臨床医としての能力を試してみた いという思いから開業を決意しました。開業に当たり、勤務医時代の患者さんを引っ張ってくるということだけはしたくなかったので、ゼロからスタートできる 場所を希望しました。いくつかの候補地がありましたが、昔から文学に関心があったので、最終的には川端康成生誕の地である大阪市北区の南森町を選びまし た。
■実際に開業されていかがでしたか?
開業準備の段階では正直、何もわかりませんでした。ただ「患者さんが安心できる『クリニックらし くない』空間」へのこだわりはありました。この思いを形にするため、何人ものコンサルタントに相談しました。なかでも日本医業総研の担当者さんは、私の思 いをすべて現実的なものに置き換えてくれました。建築会社探しからビルオーナーとの折衝、ホームページ制作など、あらゆる分野でサポートしていただき、物 件を決めてから5カ月後に開業しました。
開業後の1カ月間は集患は期待していませんでしたが、開業してから患者数がゼロの日はいまだにありません。おかげさまで、予想よりも早く採算ベースに乗せることができそうです。患者さんは圧倒的に女性が多く、そのうちの大半が社会人の方ですね。
■設計段階ではどのようなこだわりを持たれましたか?
「入りやすさ」と「居心地のよさ」にこだわりました。最近、うつ・ストレス系疾患にお悩みの方が増えてきたため、心療内科は次第に認知されるようになりましたが、それでも世間的には“精神科”に対する偏見はまだ残っています。
当院はオフィスビルの10階ですので、これだけ上階にあると患者さんはさほど抵抗なく来院できま す。入り口は半透明のすりガラス戸にしています。来院を躊躇される患者さんに安心していただくための工夫として、扉上部を透明にし、そこから「精神保健指 定医」「精神保健判定医」など、私が所持するいくつかの免許・資格証書が見えるようにしました。
■内装も随分、工夫されたとお聞きしています。
待合室は病院やクリニック特有の無機質な空間ではなく、テーブル、ソファ、クロスなどのインテリアにこだわって、落ち着いた雰囲気のレイアウトにし、患者さんのプレッシャーを払拭できるような“安らぎ感”を演出しました。
また、ゆったりした時間を提供するために、待合室にはあえてテレビは置かず、BGMは歌詞のない“癒し系”のものを選びました。そのほか、受付や待合室、診察室は、患者さん同士の視線を配慮した動線にし、最適な環境づくりをめざしました。
居室の雰囲気を出し、患者がリラックスできる空間を演出
薬を多用せず患者とじっくり向き合う
■診療におけるモットーをお聞かせください
無駄な検査はしない、薬をあまり使わないということです。心療内科に来院される患者さんの多く は、別の医療機関で既に内科的な検査は受けているケースが多いので、当院で同じような検査で症状を確認するのは無駄になります。それよりも患者さんとじっ くり向き合うことを最優先にしています。
安易に薬物療法を行うのではなく、なるべく精神療法で治療していくためにも、初診の患者さんには 約1時間程度の診療時間をとっています。開業してから、この治療方針が患者さんにとって最良で、かつ集患につながると確信でき、経営者としての自信がつき ました。今後は待ち時間を短縮するために予約制も視野に入れています。
■実際に開業されていかがでしたか?
長年、大学病院にいた私には、開業の知識もノウハウもありませんでした。開業は一人ですべてできるものではありません。ビジネスパートナーとして、良心的な開業コンサルタントを選ぶことが、成功への近道ではないでしょうか。
コンサルティング料の安さだけで決めてしまうのはやはり問題があると思います。たとえ料金設定が 少々高くても、綿密な打合せと現実的な提案が行え、アフターフォローもしっかりしている方が、コストメリットが期待できます。私は今回の開業で、自分の人 生において人との出会いはとても大切であることを実感しました。
向井 泰二郎(むかい たいじろう)先生
ご経歴
1982年、近畿大学医学部卒業。同大附属病院精神神経科研修医を経て、医療法人田村会貝塚中央病院精神科に勤務。近畿大学医学部精神神経科准教授に就任し、2007年に退職。同年11月、向井メンタルクリニックを開業。
精神保健指定医、精神保健判定医、日本総合病院精神医学会専門医、日本老年精神医学会専門医、日本欧州共通サイコセラピス。