先生のご経歴を見ると、台湾で生まれ翌年には日本に移住。高校卒業後にあえて台湾大学医学院進学を選ばれたということですね。
台湾大学を選んだ理由は、まず親元を離れたかったということですね(笑)。子どものころ、北米を始め海外には一時期在住していたこともあったのですが、大学進学は恐らく日本から長期離れられる最後のチャンスかなと思いました。欧米かアジアかで少し迷いましたが、元々台湾生まれで、親戚もほとんどが台湾在住者です。家では中国語を話していましたが、それでも仕事でも使えるレベルにするには一度行った方がいいかなと思っての決断です。
医師を目指すことは、先生のなかでは早くから決まっていたのですか。
整形外科医だった父の姿を見て、悪くない道だとは思っていましたが、アメリカなどと違ってアジアの大学では18歳の入学時から医学部の学習が始まりますから、事実上臨床医や研究者になる以外の将来像は描けません。一般教養を学んでから冷静に考えたいという思いもありましたが、実習が始まってからは医療の面白さを実感できて、その後はブレることなく研鑽に励みました。
台湾で医師免許を取得後に帰国し、改めて日本の医師免許を取得され臨床研修を受けられたというのは、「仕事は日本で」という気持ちが先にあったのでしょうか。
台湾で医師を続ける道もありましたが、そこはいろいろと考えました。台湾と日本とでは医師を取り巻く環境が異なります。医療とその周辺産業の市場規模は当然日本の方が大きく、大学での臨床研究を民間企業が支援することで規模や質を高め、成果をフィードバックするしくみが整っています。そうした学ぶ土壌があることが決め手でした。そもそも育った日本に帰るわけですから、違和感も当然ありません(笑)。
専門領域に皮膚科を選ばれた理由は何でしょうか。
最初から皮膚科一本というわけではなく、内科にも興味がありました。研修が始まる前に両方の診療科を見学しましたが、元々手を動かすことが嫌いではなく、東大病院の皮膚科には皮膚がん手術の専門チームがあって、初期の診断から術後の化学療法だけでなく、進行した症例では緩和ケアを含めた終末医療まで一元的にかかわることができました。そこが自分に合っていたのだと思います。結果的に全身を診る内科的アプローチから、繊細な手技を必要とする外科的治療まで習得することができました。
勤務医時代に相当数の手術業績を積まれてこられたのですね。
入局当初から手術をやりたいという意思を伝えてありましたので、早くから手術を入れていただけました。2年目に関連病院に赴任しましたが、大学病院よりも皮膚科医の人数が少ないため、さらに主体的に手術症例にかかわることができました。医局に戻ったときは4~5年目の皮膚科医になっていたので、新たに入局した後輩に手術の基本を教えたり、病棟の皮膚外科指導医として手術症例を統括したり、他科の先生方と連携して重症患者の治療にあたってきました。
今回の開業では、河合先生からメールでコンタクトいただいたわけですが、当社日本医業総研のことは何でお知りになりましたか。
条件を限定せずいろいろなコンサルティング会社を調べました。そのなかから日本医業総研に連絡した理由は二つあって、一つは開業サポート実績の中に先輩開業医が多数サポートを受けていたこと、二つ目は開業をゴールとするサポートではなく、開業がスタート地点なのだという企業理念に共感したからです。実際、開業後の経営的なフォローは税務・会計部門(税理士法人日本医業総研)にも引き継がれていて、電子カルテデータなどから患者さんの来院分析なども行っていただいています。
皮膚科は比較的若い年齢での開業が多い診療科ですが、先生が開業を意識されたのはどういったきっかけでしょうか。
開業を考え始めたのは、大学病院から出たころですから、いまから2年前くらいでしょうか。大学や大規模な総合病院では効率を優先して数を診なければならないだけに分業が進んでいて、一人の医師が一貫して一人の患者さんに向き合うことは少なく、とくに後輩を指導する立場になると、手術のときだけ患者さんとかかわるケースも多々あります。術後のケアを他の医師にお願いできるのは助かる反面、物足りなさも感じていました。また、大学では難渋している重症者を受け入れることが多いので、初期のスクリーニングによる問題発見の場面を経験する機会は自然と少なくなります。子どものころから住んできた板橋区成増で、私が学んできた技術を還元したい、地域で皮膚疾患に悩む人たちに、問題を探し出してあげて正しい方向に導ける施設を運営したいという気持ちに向きました。
開業の前年にクリニックに非常勤勤務されていますが、これも自院開業を見据えてのトレーニングという意図からでしょうか。
その通りです。皮膚科はやや特殊な領域で、皮膚の個別の悩みについて、保険診療の定義では疾患とはならず、自由診療の中にそのニーズを満たす治療法があるというケースが少なくありません。診療内容の根幹はもちろん保険診療ですが、症状や相談に対する解決策として、自由診療の選択肢も苦手意識なく提示できるようになったことは、非常勤として務めさせていただいたクリニックの先生方に感謝すべき点です。おかげで、柔軟な治療プラン作りが可能となり、開業に大きく活かされていると思います。
開業にあたり、病院外来とは違うという意味でどのような医療提供を目指そうとお考えですか。
私自身が30代半ばですので、働き盛り世代が時間がないばかりに適切な医療にかかれないという現実を身をもって感じています。そこで、クリニックでは夜間の診療終了時間を遅めの19:00としたほか、土曜日も終日診療を受け付けるようにしました。皮膚科に限ったことではありませんが、軽症であっても何かしらの疾患を抱えていると日常生活に影響し、本業のパフォーマンスを落とすことになります。当院の地域での立ち位置としては、年齢性別にかかわらず、より多くの方に門戸を開き、あらゆる皮膚・髪・爪の悩みが相談できる玄関口であることが大切だと考えます。また、高い専門性を発揮するという意味では、これまで皮膚がんとレーザー治療を専門としてきましたので、皮膚腫瘍のさまざまなケースに対してダーモスコピーなどの専門的検査に、保険診療と自費診療のどちらでも的確な治療プランを提案できます。皮膚腫瘍の良性悪性の判別から、良性腫瘍を中心とした切除手術も一部クリニックでカバーできます。悪性が疑われる症例などは、適切なタイミングに医療連携登録をしている大学病院に紹介し、時間的無駄のないバトンタッチに努めています。
皮膚科に特徴的な保険診療と自費領域の密接な関係性において、とくに女性の場合だと治療以後の修復に期待されるところが大きいと思われますが、治療の考え方などのコミュニケーション上で気を付けていることはありますか。
開業から2週間足らずですが、保険診療後に「以前からこのシミが気になっていた」といった相談が思った以上に多く寄せられます。シミの種類によって治療法や使用する医療機器が異なるという説明を施術同意前に詳しくしていますが、安易に1回で魔法の様にシミが消えるというような、非現実的な期待値を安易に約束しないよう注意しています。そのうえで、どこまでの修復が可能か、治療には何回の通院が必要か、治療にかかる費用はどの程度かなどを明確にし、透明性の高い医療提供に心がけるようにしています。
開業準備期間中に新型コロナウイルス感染症がニュースとなり、瞬く間に拡大したわけですが、どのような感染症対策のもとに開業を迎えられたのですか。
建築中は新型コロナなど当然なかったのでハード面の対策はすべて後付けですが、発熱者を隔離できる部屋を確保し、受付に飛沫防止のアクリルスクリーンを設置しました。運営については前職での心得があったので、来院者全員の体温測定や体調チェック、アルコール消毒液の複数個所での設置、人の触れるドアノブや椅子・手すりなどの頻回の消毒、各室の換気の徹底など、スタッフに対して方針をしっかりとアナウンスできています。
今後の自費の伸びしろにも期待できそうですが、クリニックのホームページを見ると、やはり保険診療をしっかりとやっていくというスタンスが伝わってきますね。
医学生時代に言われた父の言葉で印象に残っているのは、「何科に行っても、内科の勉強を疎かにするな」というものでした。どの診療科においても基礎にあるのは内科的スキルであり、そこが理解できていないと患者さんの全人的な評価ができず、限られた疾患での狭域な診療しかできない医師になってしまうという教えです。皮膚科でも内科の知識が必要なのは同様ですが、領域が広い分、保険を疎かにして単価の高い美容に振れると重要な見落としが生じる可能性があります。保険診療という基軸の質を一貫して守っていくことが、自費というプラスアルファの価値を生むと思っています。
先生の目指す医療を実現するために、クリニックの顔となるスタッフに求めるスキルは何でしょうか。
とくに細かな規定を作っているわけではありませんが、患者さんに親身になって接するという基本は重視したいと考えてます。子どもから高齢者まで幅広い年代層に対応するためには、マニュアルにはない臨機応変さも必要になってきます。また、時代が進むにつれ、古い治療法が淘汰され、新しい治療法が開発されますので、そうした変化にも柔軟に対応できるように伝えています。日常の実践としては、1日1~2回、受付・看護師それぞれから、患者さんからのクレームや対応の難しい場面などのフィードバックを受け、少しずつでもよいので、よりよい診療環境に近づける努力を続けています。まだクリニックとして至らない点も多いですが、課題をスタッフ全員で共有し、早期改善を促したいと考えています。
今回の開業では、弊社の三木が先生のサポートを担当させていただきました。コンサル内容についての率直な評価をお聞かせください。
コンサルが始まる最初のタイミングで、三木さんには「僕は多分いろいろ変なことを言い出すと思うので、そのときはブレーキをかけてください」とお願いしました(笑)。開業の当事者としてやりたいことがあれこれと出てくることは予想していたので、「忠言耳に逆らう」の憎まれ役をお願いしたわけです。実際、開業準備の途中であれこれ悩んだ際には、ビシッと意見をしていただきました。また、開業物件は大手ディベロッパーによる建物で、駅から至近で注目度も高いのですが、入居の際の制約が多く、三木さんには粘り強く交渉をしていただきました。
クリニックの成長像をどのように描いてらっしゃいますか。。
今は1日の業務が終わると、翌日の準備など雑務に追われ、その日暮らしのようなところがあるのですが(笑)、一番の目標は、地域近隣の皆様から、皮膚の悩みだったら「かわい皮膚科」に相談すれば解決に導いてくれる、という評価を定着させることで、どんなに治療が難しい症状であっても決して患者さんを見放さないクリニックでありたいと思っています。皮膚科の競合は少なくありませんが、内覧会には約150人もの方々にお越しいただけました。この周辺は高齢者が多い一方で、新築マンションも増えていて、新たに引っ越してこられる若い世帯も多くいらっしゃいます。そして皮膚の悩みで、多数の医療機関を転々としてきたが患者さんもやってきます。今後のどのような発展をするかは別として、常に初心を忘れず、的確な診断ありきで患者さんに接していきたいと思います。
成増駅前かわい皮膚科
院長 河合 徹 先生
院長プロフィール
1984年 台湾生まれ
1985年 日本に移住
2000年 板橋区立赤塚第二中学校 卒業
2003年 慶應義塾志木高等学校 卒業
2010年 台湾大学医学部 卒業
台湾大学医学部附属病院 インターン終了
台湾医師免許 取得
2012年 日本国医師免許 取得
東京大学医学部附属病院 初期臨床研修
2014年 東京大学医学部皮膚科学教室 入局
2015年 国際医療福祉大学三田病院皮膚科 常勤医師
2017年 東京大学医学部附属病院皮膚科 助教
2019年 東京逓信病院皮膚科 常勤医師
2020年 六本木 今泉スキンクリニック 非常勤医師
渋谷駅前おおしま皮膚科 非常勤医師
11月 成増駅前かわい皮膚科 開設