日本医業総研とかかわるきっかけは医院経営塾の参加でしたね。
狛江市内で、私と同年代で訪問診療を専門にしているクリニックの院長に、開業について有用な情報を聞ける場がないかと聞いたところ、教えていただいたのが医業総研の主催する医院経営塾でした。
医療機関のお金の流れについて多少の関心はありましたが、人にかかわるお金は把握できておらず、なるほどこれが経営のリアルなのかと思いました。何人の患者に対応することでクリニック経営が回っていくのかのイメージもつかむことができたと思います。
先生が開業直前まで勤務されてきた東京慈恵医科大学附属第三病院ですが、総合診療部という一般にあまり聞き慣れない部門に在籍されたきっかけは何だったのでしょうか。
東京慈恵医科大学附属第三病院の総合診療部は2000年に新設された診療科です。この総合診療部については、じつは私が先駆的な立場にいて、初期臨床研修を終え、そのまま入局したのは私が最初でした。多様な診療科を横断するように医師が集まって立ち上げた部門で、当時は希望しても進むことができなかったのですが、私の場合はレジデントとして学べる道を先輩方が作ってくださいました。
総合診療部は重篤な自覚症状がありながら、検査をしても罹患臓器や病因が特定できないケースなどを受け持ち、全人的な評価の下で診断を確定して治療するほか、該当する臓器別の専門診療科に紹介するなど部門の強みが発揮されています。
その後、相模原病院のリウマチ科で学ばれたようですが、総合診療も含め開業を意識されてのことでしょうか。
リウマチ膠原病科は特定の臓器を対象としないことから基本的に専任の先生はおらず、総合診療部が受け皿になって診てきました。リウマチ患者さんは常に一定数いますので、私自身が強くなる必要があると考え1年間国内留学させていただきました。
ただ、その時点では開業は頭にありませんでした。開業を意識し始めたのは医局で一定の年数を経てからで、それこそ訪問診療なども経験しながら地域の医療関係者、介護関係者たちとの顔の見える関係ができ、もっと外部に目を向けて情報を集めようかなと思ったのがきっかけです。
開業ではどのような経営方針を立てられましたか。
私自身も含めクリニックの全スタッフが幸福でなければ、周囲の人たちを幸福にすることはできないというのが私の基本マインドとしてあります。
診療では、どんな方でもここに来ればその時々の状況にもっとも望ましい提案が受けられるというのはありました。子どもから高齢者まで、患者さんを選ぶことなくどんな相談にも応じられるよう意識しています。もちろん経営的な思考や判断は必要となりますが、患者数を追いかけて多額の収益を得るということより、まずは私たちがここで診察していることで周囲をプラスのベクトルに導くことができれば、地域における当院の存在意義を感じていただけると思います。
開業時から在宅診療にも対応されていますが、現在の状況はいかがでしょうか。
在宅は4人の患者さんからスタートしました。それから1カ月でお1人が亡くなり、お1人が入院されました。それからすぐに2人の紹介がありましたので、それなりに回っていくのではないかと思っています。
新規のお2人はどこからの紹介なんですか。
お1人は前職の東京慈恵医科大学附属第三病院からで、患者さんや主治医との接点はなかったのですが、内科の外来スタッフからの紹介もあり、当院を選ばれたようです。もう一方は地元のケアマネジャーさんから訪問診療の依頼でした。
在宅で非常に濃密な医療提供をされている先生もいるようですが、私の場合は時間や手持ちの医療資源も限られているので、当面はある程度病状の安定されている方や、ご自宅での穏やかな看取りを希望されている方を診ていければいいかなと思っています。
クリニックのスタッフに望まれるスキルや、そのために実施されていることがあったらお聞かせください。
医療提供側の基本姿勢は「待ち」です。そうしたなかでも、来院者の生活背景はそれぞれですから、スタッフにはその状況を思慮したり判断できるようになっていただきたいし、そのために患者さんへの積極的な声掛けなどを大事にしていただきたいものです。
開業からまだ一月ですが、クリニックとしては毎日の朝礼を実施しているほか、1カ月目のタイミングで実施した個別面談で各自に自己評価表のようなものを渡して半年後に改善・向上の評価を双方で確認し合いたいと思っています。この面談は定期化する予定です。
新型コロナウイルスの感染者が収まらない状況下で開業を迎えられました。どのクリニックでも受けた打撃は当然少なくないのですが、開業初月に担当コンサルタントの小畑が作成した事業計画の4カ月目の売上数値を出されています。この良好な立ち上がりをどう分析されていますか。
単純にこれまでの地域とのつながりのなかでやってきたことが大きいのかなと思っています。1度来院いただいた方が、何かしらの相談で再来いただく状況が作られているように感じられます。地域性なのでしょうか、健康診断の受診者も予想以上に多く来院されています。最初に開業告知チラシをお配りしただけで、これといった広告も打っていませんし、時期に配慮して内覧会も中止しました。googleなどのネット検索で上位に表記させるためのSEO対策は行いましたが、費用は最少にとどめています。
今後、もっと来院者数は増えるでしょうし、1日50~60人の外来はこなしていきたいと思っていますが、患者さん1人にかける時間を削って医療の質を下げるようなことがあってはなりません。短い時間であって丁寧な診療を受けたいというのが患者さんのニーズでしょうから、そこにはしっかりと応えていきたいと思います。
今回の開業サポートは、日本医業総研の小畑が担当させていただきました。コンサルティングの内容について、率直な評価をお願いいたします。
全体としてはよくやっていただけたと満足しています。ただ、今回新規に業界に参入してきたメーカーのクラウド型電子カルテを導入しました。不具合に悩まされ、四苦八苦しながらも一応は形に収まっていますが、電子カルテ選定での私の相談に的確なジャッジが欲しかったと思います。新製品ゆえに情報量自体が少ないというのもあったのでしょうが、そこは開業コンサルタントの高い専門性を発揮していただきたかったと少し残念に思います。外部に対して常に新たな情報ネットワークを構築しつつ、我々にも有用な情報を提供いただけたらいろいろな意味でスッキリといったのではないかと思います。
クリニックの将来像をどうお考えですか。
私1人ですべての医療機能をまかなうのは現実的に大変だと思っています。在宅診療も週4日、13:00~15:00の時間帯を充当していますが、今日も1件ターミナルの方の看取りを依頼されたものの時間のやりくりが困難でお断りしました。医師2人体制で外来と在宅を効率よく回し、夜間などもカバーできることが理想ですし、医療安全も確保されますが、こればかりは賛同いただける医師がいてでの話です。体力のあるうちは可能なかぎり私1人で運営し、長い目で今後のことを考えていきたいと思います。
やまだ総合内科クリニック
院長 山田高広 先生
院長プロフィール
日本内科学会 総合内科専門医・指導医
日本プライマリ・ケア連合学会 プライマリケア認定医・指導医
日本化学療法学会 抗菌化学療法専門医・指導医
認知症サポート医
日本臨床倫理学会 臨床倫理認定士
2002年 東京慈恵会医科大学卒業
2002年 東京慈恵会医科大学内科研修
2004年 東京慈恵会医科大学総合診療部レジデント
2005年 独立行政法人国立病院機構相模原病院リウマチ科国内留学
2007年 東京慈恵会医科大学総合診療部レジデント修了
2007年 東京慈恵会医科大学附属第三病院総合診療部
2020年 やまだ総合内科クリニック開設