採用決定時の留意事項
雇用契約書の締結や身元保証書の提出などで採用後のトラブルを回避
口頭伝達はトラブルのもと
面接を経てスタッフを採用する際に、最も重要になるのが「雇用契約書の締結」である。
労働基準法や労働契約法で定められているものであるのは言うまでもないが、
それ以上に締結することで無用なトラブルを防ぐことができ、スタッフが安心して働ける職場を形成するためにも役立つ。
たとえば、退職金の支払いは、勤続3年以上の常勤のみを対象とするつもりだったとする。
しかし、それを書面で明示していなければ、勤続3年未満で退職する常勤者や勤続3年以上で退職する非常勤職員から
退職金を要求され、トラブルになるというわけだ。
口頭で伝えていたとしても、当の職員は退職時に「聞いていない」と詰め寄ってくることになる。
人は、自分にとって好都合の条件は口頭であっても覚えているものだが、不利なものは頭から消してしまいがちだ。
労働契約法では、労働契約の原則を「労働者および使用者が対等の立場における合意に基づいて締結するものである」と定めている。
両者が採用時に条件をしっかりと確認・合意し、そのうえで合意したことを書面に残しておけば、
採用後に就業規則に不満があったとしても、合意に基づいて契約したことが証明される。
万が一、内容に合意できないということであれば労働契約は成立しないが、後でトラブルになるよりはリスクが低い。
書面で明示しなければならない事項は、労働基準法で明確に定められている。
あらかじめ専門家に相談したり、労働局やハローワークで雛形を取得しておくことをおすすめする。
そのうえで最低限伝えたいことを記載し、内容を説明することで、お互いに十分合意してから採用するというプロセスが必要だ。
書面をスタッフに渡すことで、「安心できる職場」と感じ、気持ちよく働いてもらうことができる。
何事も最初が肝心
トラブルを回避する方法として、採用時に身元保証書を提出させることも有効である。
実際にあった例として、身元保証書の提出を求めたら、それを拒んだスタッフがいた。
「両親がどうしても書いてくれないんです。出さなくてもいいですか?」と言われ、院長は仕方なく了承した。
ところが結局、そのスタッフは「両親が退職しなさいと言ってくるから」と、ほどなく退職してしまった。
採用時には、その後起こり得るトラブルが予測できる兆候が存在している。
この場合であれば、そのスタッフが自分の考えよりも両親の言動で行動を決定する可能性があることからトラブルが予測できた。
提出の必要性を説いても応じない場合は、協調性などに疑問が残る。
採用の段取り次第で診療所の人事状況は大きく変わる。何事も最初が肝心ということを認識していただきたい。
高橋友恵 たかはし・ともえ
社会保険労務士。株式会社日本医業総研人財コンサルティング部マネージャー。診療所での人財育成に関するコンサルティングを担当。
診療所特有の労務管理業務に携わり、200件以上の関与実績を誇る