育成の心構え
人材育成は「担雪埋井」。目的を理解し強い決意で臨むことが何より大切
人事労務が売上に直結する時代
今まで本連載で紹介した事例や考え方は、当社が開業コンサルティングを担当し、
黒字化までをサポートするなかで取り組んできたことをベースにしている。
黒字化に至るまでの創業期にクライアントから寄せられる相談の半分以上が人事労務関係であることから、
昨年、人財コンサルティング部という専門部門まで立ち上げ人材育成を含めた人事労務問題の解決に当たってきた。
個人的だが、「ここまで人事関係に力を入れている開業コンサルティング会社は他にはないだろう」と思えるほど、
当社がそこに拘るのには理由がある。
年々診療所間の競争が激化する状況下で開業を成功させるには、提供する医療サービスを差別化し、
いかに口コミを増やしていくかということ重要になってきている。
そのためには院長自身の診療だけではなく、受付や看護師の接遇や患者向けサービスを
より患者満足度の高いものにしていかなければならない。
つまり、院長自身の人事労務マネジメントが、開業後の売上に直結する時代になってきているのである。
これからはそのことに気づいて真摯に人材育成に取り組む診療所が、いわゆる“勝ち組”となっていくと思われる。
繰り返し行うことで道は開ける
医局の勤務医が開業前に必ず見学に訪れるという、ある大成功の眼科診療所の院長は、
後輩の医師に対して「従業員は、家族以上に大切な人間と思わないといけない」とののアドバイスを実感を込めて送る。
巷間、「CS(顧客満足)はES(従業員満足)から」という言葉を目にするが、これは従業員を待遇面で満足させていくということではなく、
「充実した医療サービスを提供することで患者に喜んでもらうことが従業員自身の喜びにつながっていく」という気持ちを
持たせることができるかということだと私は解釈している。
しかし、これまで書いてきたように、人材育成は難しく、手間暇のかかる作業。これは私自身、自分の会社でも痛感していることでもある。
当社では人材育成の要諦を「担雪埋井(たんせつまいせい)」という言葉でよく表現する。
もともと、すぐに溶けてしまう雪で深い井戸を埋め尽くすことは決してできることではないが、
たとえ無理だとわかっていても、それを無心でやり続ける行為こそが尊いという意味だが、
人材育成は、決して諦めることなく繰り返し行うことで道が開けていくものであるということを教えてくれている。
実際、私はある若手社員との早朝ミーティングを約1年間欠かさず続けており、最近ようやくその社員の目の色が変わり始めてきた。
何のために人材育成を行うのか、その目的を院長自身がよく理解して、強い決意で臨むことが何より大切だ。
植村智之 うえむら・ともゆき
株式会社日本医業総研東京本社シニアマネジャー。過去300件の医院開業を成功に導いた同社の創業メンバー。
自身も50件以上の開業に関与し、そのすべてが軌道に乗っている。スタッフのモチベーションアップ研修、労務トラブル解決対策などに定評がある