良い風土と悪い風土
職員の入れ替わりに左右されない「良い風土」を築くために、院内ルール作成に深く関与すべき
経営理念の浸透で良い風土形成
診療所はパートのスタッフの割合が高いうえ、女性中心の職場なので、一般的に定着率は低い。
開業から1年後には、オープニングスタッフのうち1/3くらいが入れ替わっているようなことはよくある話だ。
スタッフが大幅に入れ替わると院内の雰囲気もがらりと変わってしまうと考えがちだが、
私の経験則では必ずしもそうとは限らない。
それは、各施設にはそれぞれの風土が形成されているからではないかと思う。
この風土には良いものと悪いものがあって、良い風土は院長が経営理念を浸透させていくなかで出来上がる。
それはたとえ職員が大幅に入れ替わったとしても、できれば残したいものだ。
これまでの連載で著者が述べてきたことに留意して取り組めば、オープニングスタッフのなかに深く浸透していくことで風土化されるので、
新しいスタッフが入職してきても揺るがないものとなる。
悪い風土を導く職員優先ルール
一方、悪い風土は積極的になくしていきたい。ここで事例を一つ紹介しよう。
私が院内サービス向上のコンサルティングを担当したT小児科では、院内ルールの多くがスタッフの都合を優先したものとなっていた。
同院では、夜の受付終了時間になると当時に留守番電話をセットするという運用をしていた。
しかし、受付終了時に診察の順番を待っている患者がいることも多く、外部からの問い合わせにも充分応じることができた。
当日受診した患者からの質問や、患者が処方箋を持ち込んだ調剤薬局からの問い合わせなどがあった場合に対応できる状態なのにもかかわらず、
一切受け付けないというルールを、開業当初からずっと採用していたのだ。
どうやら自分たちが早く帰れるようにと、開業準備の段階でスタッフ同士が話し合って決めたようだ。
新たなスタッフも、これを当たり前のこととして受け入れてきたのだろう。
すぐに最後の患者が帰った時点で留守番電話をセットするというルールに変更してもらったのだが、
これはまさにスタッフ都合を優先した悪い風土の一例だ。
院長に話を聞いてみたところ、開業前にスタッフたちが院内ルールを作成している時に、受付まわりに関しては彼らのやりやすいようにすればいいと、
あまり口を出さなかったとのこと。
調べてみると、ほかにもスタッフの都合が優先されたルールが多く見つかった。
悪い風土は、一旦出来上がってしまうと変えることが難しい。
院内ルールは良い風土を築くための導線となるものなので、できればその策定段階から院長自らが深く関与していく必要がある。
開業準備過程から患者目線で院内ルールを決めていくことは意外と重要なことであり、
その際は院長自身がリーダーシップを発揮してルール作成への舵取りをすることが肝要である。
植村智之 うえむら・ともゆき
株式会社日本医業総研東京本社シニアマネジャー。過去300件の医院開業を成功に導いた同社の創業メンバー。
自身も50件以上の開業に関与し、そのすべてが軌道に乗っている。スタッフのモチベーションアップ研修、労務トラブル解決対策などに定評がある