大切にしてきた患者さんとのコミュニケーション
ホームページを興味深く拝見させていただきましたが、ウィリアム・オスラーの言葉に感銘を受けて医学を目指されたのですね。
浪人時代に読んだ本で初めてオスラーに触れ、こんな考え方を持つ医学者もいたのかと思いました。それまで割と自由気ままに過ごしてきたのですが、医学部受験を目指す契機になりました。
専門分野を脳神経外科にすることは、早くから決めていたのですか。
特に強くこだわったわけではなく、複数の診療科を経験しましたが、内科のような広範囲を網羅できるような器用さはなく、もっとも脳神経外科だって脳だけ診ていればいいというわけではありませんが、外科医療は好きでした。部活が水泳部だったのですが、部長が脳神経外科の教授だったことから「とにかく来いよ」という感じで(笑)、同期と二人で脳外に進みました。
順天堂で脳外というと、医療の醍醐味はやはり手術ということになるのではないかと思うのですが、クリニックのホームページでは予防の概念が強調されているような印象を受けました。予防となると生活習慣なども含め内科の領域だと感じるのですが、外科医の斎藤先生が予防に目を向けられるようになったきっかけは何でしょうか。
病院の外来で長く診ている患者さんのなかには、30代~40代で脳梗塞や脳出血を発症し、気が付くと70歳、80歳になっていたという方が結構いらっしゃるのです。そういうケースを見てきて、脳卒中でも前兆となるTIAを経験される方もいますし、一次的な脳機能低下などの症状を見逃さなければ早期の医療介入が可能です。さらに、食生活の改善や血圧値のコントロールなどで予防もできます。私がいま持っている技量をそういった分野でも活かせるのではないかと考えました。
元々、外来がお好きだったのでしょうか。
結構好きでしたね。手術の方は徐々に若手医師に任せ、その分、外来患者さんとは割と親密にコミュニケーションを図ってきたと思います。一方で、埼玉は脳神経外科が少なく、病院でMRIを撮るにしても、患者さんには相当な待ち時間を強いてきました。それなら自分でクリニックを作って、そこに私の経験・知見を注ぎ込み、地域医療の一端を担っていく選択もあるなと思いました。
外科医の身体の一部といえるメスを置くことに、多少の躊躇や寂寥感のようなものもあったのでは?
それはないですね。医局には体力・技術ともに優れた若手医師が育ってきています。逆に私は年齢とともに段々体力も落ちてきていましたので、手術もいまの能力・技術に適合するところで実施してきました。自然の世代交代のようなものです。
先生には5年ほど前に当社主催セミナーの「医院経営塾」にご参加いただきました。その段階で、ある程度開業の意向は定まっていたのでしょうか。
開業志向があっても、内科系と違って脳神経外科の医局にはあまり開業に関する情報が入ってきませんし、同僚に気軽に聞けるような雰囲気でもありません。思うように情報収集できずウェブ検索をしたところ、日本医業総研のサイトから信頼できそうな雰囲気が感じられ、一度話を聞いてみようと思ったのです。医院経営塾に関しては、病院勤務しか経験のない医師はどうしても経営や税務・会計といった分野に疎いですし、聞きかじりの知識で何とかなるものでもありません。実は一度医療系大手企業主催のセミナーに参加したことがあったのですが、私にはどうも合わなかった経験があります。その点は、医院経営塾の方がしっくりときて、経営の輪郭程度は掴むことができたように思います。
医院経営塾の参加から今回の開業まで、やや時間が空きましたね。
開業の意思が薄れたわけではなく、2020年早々からコロナ禍乱が始まり、私自身の脳神経外科部長就任、大学の教授選といった身近なイベントなどで落ち着かず、プライベートでは結婚もしたり(笑)、ズルズルと時間が経ってしまいました。
自院開業で特にこだわった点はどこでしょうか。
子どもも含め、脳外診療需要を幅広くカバーするため、CTとMRI両方の導入にはこだわりました。ただ、それだけの広さを確保しようとすると、都内では物件自体が少なく、賃料負担も重いことから、脳外の開業医が少ない埼玉県でということになりました。
患者さんの個別性への対応とスピーディな検査
外来がお好きだったということですが、受診のハードルを下げるというクリニックの役割も含め、患者さんとのコミュニケーションのあり方をどのように考えられますか。
受診される患者さんの悩みや症状には一括りにはできない個別性があります。私から一方的に結論を出すのではなく、患者さんの訴えを丁寧に抽出して、その患者さんに最適な治療のアプローチを提案するようにしています。加えてスピードです。予約なしで、臨機応変にMRIに対応していますし、MRI自体も最新のAIを搭載していますので本当に早く撮ることができます。外傷の患者さんなどは、MRIの合間にCTを撮りますので、患者さんにはストレスなく、スピーディに診断を下すことができています。「ここで話を聞いてもらって良かった」と満足してお帰りいただけるようなコミュニケーションに心掛けています。
頭痛外来の需要も非常に高いと聞いたことがあります。
確かに多いですね。頭痛といっても症状の重い方、何か重大な疾患の前兆なのではないかと心配される方、処方箋だけを求められる方、とにかく辛い痛みをいますぐに治して欲しいという方など様々です。それらを限られた時間のなかでどうキャッチアップしていくのかが専門医の技術です。
先生の診療に対するお考えを実践するうえで、スタッフにも高い意識レベルとスキルが求められます。理想とするスタッフ像についてどのようにお考えですか。
やはり相手の立場に立って考え行動するということでしょう。サービス業でよく言うホスピタリティとはやや違います。それが医療です。患者さんはそれぞれに問題と不安を抱えて来院いただいています。一方的な視点や概念で対応するのではなく、いま目の前の患者さんのために何をしてあげられるのか、そこが大切だと考えます。
具体的には、スタッフの皆さんとは日常的にどんなコミュニケーションを図っておられますか。
朝夕、診療前後のミーティングのほか、最近は皆で一緒にストレッチをしています。ただ私が主導しすぎると体育会系の部活のようになってしまいます(笑)。スタッフもそれぞれに個性があるわけですから、いろいろなことをお願いしつつも、現場からの自発的なボトムアップを期待したいと思っています。
今回の開業サポートは、弊社の三木崇史が担当させていただきました。斎藤先生からご覧になってのコンサルの評価はいかがでしょうか。
それはもう満足の一言です。私自身も経験してきましたが、どんな仕事でも、新しいことを始めようと踏み出すと、いろいろなトラブルに直面します。開業立地を決めるにしても、話が五転六転してどうなることかと心配しましたが、三木さんはトラブルの都度スピード感をもって対応し、代替案を提案してくれました。そのおかげで私も気持ちを切り替えて前に向くことができましたし、結果的に理想的な開業を手に入れることができました。三木さんに紹介いただいた関係者がやはりいい方ばかりで、そこにも安心感がありました。
院長プロフィール
院長 斎藤力三 先生
日本脳神経外科学会 専門医
日本脳卒中学会 専門医
順天堂大学医学部 卒業
順天堂大学医学部 脳神経外科講座 入局
順天堂大学医学部附属順天堂病院 脳神経外科 研修医
順天堂大学医学部附属静岡病院 助手
済生会川口総合病院 医員
米国Naval Medical Resarch Center 留学
都立広尾病院 医員
順天堂大学医学部附属順天堂病院 脳神経外科 医員
越谷市立病院 脳神経外科 部長