近年急増している前立腺がんを始め、結石や感染症など泌尿器疾患の臨床需要増に対して、泌尿器科の専門医が少ないとされてきましたが、その傾向は現在も変わりませんか。
少ないですね。医師の構成割合からすると2%程度といわれてきましたが、現在もあまり変わっていないようです。日本とは逆に、米国では人気の高い診療科で、一般外科の研修を修めてから、各科のレジデンシ―・トレーニングに進み、専門性を高める形となっているようです。
大島先生が泌尿器科を専門分野に選ばれた理由からお聞かせください。
学問としての興味という一面もありましたが、臨床での改善結果がわかりやすい診療科だといえます。症例の多い尿路結石でも、詰まっている箇所に管を通す、結石を取り除くなど低侵襲の手術で症状が劇的に改善する場合があります。患者さんご自身が改善を明確に自覚できる治療だけに、本当に喜んでいただけるイメージがありました。
実際に約10年間、中核病院で泌尿器科医療に携わってこられ、診療科独自の面白さや醍醐味はどういうところになりますか。
他の診療科ですと、外来の検査で診断をつけて治療は専門の医師や診療科にバトンタッチすることが多いのですが、泌尿器科は見立て、診断、治療の提案、手術の実施といった一連の流れを、一人の担当医で完結させることになります。当然のことながら、患者さんとはその過程で信頼関係が深まりますし、病気が寛解しQOLを取り戻せた喜びも共有することができます。
また、主に尿路系と男性生殖器系にかかわるすべての病気を取り扱う診療科だけに、多様な疾患と治療のアプローチに取り組めることも面白さの一つだと思っています。
泌尿器科の手術はかつての開腹術から腹腔鏡に主流が取って代わり、現在は大学病院などからロボット支援下手術が広がりを見せています。前立腺がんや腎臓がん、膀胱がんにおける膀胱全摘出術などが保険適用となり、他の診療科でも導入され始めましたが、泌尿器科の技術的なイノベーションには驚きますね。
学生時代を過ごした和歌山県立医科大学ではロボットはまだ導入されていませんでしたが、初期研修後に「da-Vinci」が導入され、現在は国産の「hinotori」が稼働しているようです。私自身は直接触れたことはありませんでしたが、入局した大阪大学の附属病院勤務で、手術の助手、術後管理を担当させていただきました。
私が研鑽を積んだ時代は腹腔鏡の全盛期で、開腹手術は明らかに減っていました。今後、ロボット支援下手術が普及していくことは、患者さんの負担がさらに軽減される一方で、開腹手術は不得手だが、ロボット操作には長けているといった技術的な乖離が生じるのではないかと思っています。
開業志向のようなものは、大学病院時代から持っておられたのですか。
開業に強いこだわりがあったわけではありません。大学で研究の道に進むより臨床の腕を上げたいと努力して、高度な手技を伴う手術をこなしていくことに面白味を感じてきましたが、同時に泌尿器科のテクノロジーもすごいスピードで進化しています。ロボットもそうですが、更新される最新の技術が手術の主流を形成し、医師の世代交代も早まります。そろそろ後輩に席を明け渡してもいいのかなと思ったのが一つ。もう一つは2017年から勤務してきた市立池田病院の外来で、患者さんたちとの身近な関係性ができ、地域医療に貢献してみたいという思いが強くなっていきました。
弊社、日本医業総研に開業サポートをご依頼いただいたのは、ウェブ検索でということでしょうか。
そうですね。日本医業総研の開業実績のなかに、知り合いの先生がいらしたこともきっかけとなりました。開業コンサルに関しては、先に開業された先輩を訪ねたり、医局の取引先などからも話を聞きましたが、開業後の運営を見越せば、導入設備や物品の購入とは切り離して正規の報酬を支払って専門会社に任せるべきだと考えました。日本医業総研は開業を取り巻くあらゆることに、フラットな視点でかかわれるパートナーであることと、グループに医業専門の税理士法人を有するので、開業後も継続的なお付き合いができるのではないかと考えました。
先ほど、前職の市立池田病院の話をうかがいましたが、開業するなら池田市内でと決めておられたのですね。
池田病院は大阪府のがん診療拠点病院に指定されていることもあって、医療機能上、急性期の入院患者さんに医療資源の多くが配分されます。2022年2月から泌尿器科に導入された手術支援ロボットも希望者が多く、すでに長い待機時間が発生しています。入院・手術は病院経営のうえでも重要ですが、結果として外来のひっ迫が避けられないことになります。池田市の医療を考えたとき、地域単位での機能分化と病診連携が大切ですが、ここ数年で市内の泌尿器科3つが閉院し1つが開院と、慢性的に泌尿器科クリニックが不十分な状況と感じていました。
開業物件は最寄りの駅からはバス便となる住宅地です。同じエリアの他の候補物件とも比較されたと思いますが、決め手となった理由は何でしょうか。
この医療ビルは、前職場への通勤通過点だったこともあり、担当コンサルの山下さんから紹介されて、すぐに思い当たりました。クリニックの多くは駅前立地にありますので、当初は市内の石橋あたりを考えていましたが、山下さんから当該エリアの人の動き、診療圏分析調査に裏付けられた見込み患者数などを丁寧に説明いただき、私の開業イメージと一致しました。なにより土地勘もありますので、山下さんからの提案には納得できました。
先生がご自身のクリニックで実現したかった医療、いわゆる病院とは違うクリニック外来をどう描いていらっしゃいますか。
診療の流れを効率化することで、患者さんとの実のある会話時間を確保したいと考えています。池田病院では午前中だけで40人程度の外来に対応しなければなりませんでしたが、検査で生じるタイムラグや外来での化学療法、患者さん説明が長引くなどすると、1~2時間の待ち時間があたりまえのように発生しました。診療や検査の準備などに無駄をなくすために、医療機器の選定や設置場所なども相当考えて決めました。
そのためにはスタッフの協力やチームワークが不可欠になりますが、医療従事者としてのスキルを高めるためにどういった取り組みをされていますか。
受付も看護師も泌尿器科は未経験ということもあって、この1カ月は検査に関する勉強会を実施しています。スタッフの知識や経験値、スタッフ間の連携などに患者さんは敏感です。個々のスキルアップも大事ですが、あいさつも含めスタッフ同士が認め合い、敬意をもって接する風土を作ることが大切だと伝えています。
最初に地域連携の話をされていましたが、必要に応じてクリニックから病院に紹介を出す以外に、逆に他院から紹介を受けるケースもありますか。
一番多いのはPSAの値で、1次検診でちょっと高い状況のとき、1.5次的な機能として入院検査の前段階の評価を行っています。そのほか、同じビルに入居している整形外科での画像検査で、「ちょっと石のような影が映っている」という相談や、内科の先生からも尿潜血の患者さんを紹介いただくなどしています。これは医療ビルで開業した強みでもあると思います。
前職から引き継いで診ている患者さんもおられますか。
複数の方に開業のご案内はしました。期待以上の結果になるかどうかはまだこれからですが、立ち上がりの計画数を上回る患者さんには来院いただいています。いまはスタッフが業務を覚えて、クリニックに馴染むための期間でもあるので、丁度いいペースかなとは思っています。
内覧会はなかなか盛況だったようですね。
同じクリニックビルに開設されている調剤薬局からも協力をいただき、土日の2日間で約400人の方にお集まりいただきました。ワーッと入ってこられたのを見て、最初は対応に少し慌てましたが、地域での泌尿器科の潜在需要がリアルに感じられましたし、そのまま初月からの好調な立ち上がりを迎えることができました。
今回、開業のご支援をコンサルティング部の山下が担当させていただき、開業後も会計部門(税理士法人日本医業総研)が税務・会計を中心にフォローさせていただいております。そうした弊社グループの提供業務についての忌憚のない評価をお聞かせください。
医業総研にサポートをお願いしようとしたきっかけが、他のコンサル会社のレスポンスの悪さに疑問を感じたからです。山下さんを始め、医業総研の皆さんは、打てば響くというか、メールでの問い合わせの返信なども迅速で、その信頼感から全面的にお任せすることができました。
開業準備中は、融資を受けた大金が通帳に記帳されたと思うと、業者さんへの支払いなどでガンと目減りするなど、お金の動きに実感が湧かなかったのですが、相当厳しく設定された山下さんの事業計画書に則ったものでしたし、開業後は計画値を上回り、黒字化も見えてきているので、やはりお願いして正解だったと実感しています。
院長 大島純平 先生
院長プロフィール
日本専門医機構 泌尿器科専門医
日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 腹腔鏡技術認定医
2010年 | 和歌山県立医科大学 卒業 大阪大学医学部 泌尿器科 入局 |
2013年 | 国立病院機構大阪医療センター 泌尿器科 |
2017年 | 市立池田病院 泌尿器科 |
2022年 | おおしま泌尿器科 開設 |