医師の家系だとうかがいましたが、竹田章彦先生が4代目、クリニック院長としては3代目ということになりますね。
医師の家系自体はよくある話だと思いますが、私が子どものころは曾祖父も健在で、4世代が同じ屋根の下に暮らしていました。そういう意味では、医療を身近に感じる環境にいました。
先生が医師になられたのも家業のクリニックを引き継ぐことが前提だったのでしょうか。
そうですね。子どものころは、他の子どもと同様に警察官や船長になりたいなどと思った時期もありましたが、結局医者になった以上は、いつかは跡を継ぐのだろうなという気持ちはありました。
糖尿病治療でそれまでは食事療法しかなかった時代に、糖尿病の権威だった曾祖父様が日本で初めてインスリンを用いられたそうですね。
少しはクリニックの宣伝になるかと賞状を掲示していますけど、100年前、1920年代初頭の話ですからね。インスリンの国内第一人者とされる先生は何人もいらっしゃるので、そのなかの一人ということじゃないかと思っています。
その曾祖父様は神戸大学医学部の第二内科、現在の糖尿病・内分泌内科学部門の創設者でもあります。先生もその意を引き継ごうと第二内科に入局されたわけですか。
祖父は外科医でしたが、父と私は第二内科出身です。私の場合、大学が名古屋市立大学でしたので、現地に友人も多く、そのまま大学に残る選択肢もありました。診療科も小児科や外科系を考えたことがあったのですが、最終的には内科に決め、だったら馴染み深い神戸でということになりました。第二内科については当然曾祖父に対するリスペクトもあります。
今回の親子間事業承継では、日本医業総研にウェブを経由してのお問合せをいただいたわけですが、当社のことは何で知ったのですか。
コンサル会社はウェブ検索のほか、DMなどの郵便物でも調べられますが、私より先に承継開業をされた先生から日本医業総研のサポートを受けとても良かったという話を聞き、あまり悩むこともなく依頼することを決めました。
祖父様とお父様の2代、60年間続いた暖簾を引き継ぐといっても、医学・医療は常に進歩していますし、先生が直前まで病院でやってこられた高度で専門性の高い医療とのギャップのようなものはありませんか。
当然あります。ただ、クリニックだから病院よりも劣るという意味では必ずしもありません。私も大学病院から市中病院、非常勤でリハビリ病院や知り合いのクリニックでの経験もあり、当院も5年ほど前から週1日手伝ってきました。提供する医療のギャップは常に感じながらも、もっとこうすればいい、逆に病院外来のほうもクリニックに倣ってこう改善すべきではないかと思って診療をしてきました。
事業承継で悩ましいことの一つが、既存スタッフの処遇です。前院長の診療方針や運営スタイルに慣れ、地域患者さんとの顔の見える関係ができているのは強力な戦力ではありますが、親子とはいえ院長の交代に戸惑うようなことはありませんでしたか。
スタッフの処遇については、日本医業総研の山下さんとも相談を重ねました。既存のスタッフは皆50~70歳代でした。週1日勤務してきたので、人間関係の問題はありませんでしたが、皆さん当院での勤続が長いだけに、新しいことを受け入れにくく、凝り固まった考え方とのギャップが感じられました。電子カルテへの切り替えだけでも、かなりの動揺があったように思います。新たに導入した医療機器も含め、最低限、現代のスタンダードにアジャストしていただかないとなりません。
ホームページに書かれている「体と心、両方の不調を解決する」という考えですが、これは身体疾患と同時に、患者さんの不安を取り除くことと解釈してよろしいのでしょうか。
少し大げさに書きすぎたかもしれませんね。私が研修医だったころの勤務先で、医師の心がけとして「患者さんの体と心」、というのが必ず出てきて、当時からいい言葉だなと思ってきました。実際、糖尿病患者さんに接していると、抑うつが多いことがわかります。この「心の問題」は、最近、糖尿病学会でもスポットが当てられているテーマです。しかも、うつが進むと糖尿病が悪化し、逆に糖尿病が進むとうつ症状も重くなるという相互負の関連が認められています。そうなった場合、体と心双方に医療的アプローチをすることになります。また、学会がもう一つ重要視しているのが、糖尿病患者さんのスティグマです。本質的に糖尿病患者さんは、ご自身が糖尿病であることを周囲に知られたくない一方で、セルフコントロールが難しいことへの恥や不名誉を内に抱えています。そもそも自覚症状が少ないだけに、一番怖いのは患者さんが治療を放棄してしまうことです。重症化を抑え、合併症を防ぐことが糖尿病治療の目的ですから、専門医として患者さんの心の部分には常に注意を払っています。
前職、神鋼記念病院時代から継続的に診ておられる患者さんもいらっしゃいますか。
病院で担当してきた患者さんに積極的に案内したことはありませんが、病院の待ち時間が苦痛なのか、私を頼ってなのかはわかりませんが、一部の患者さんにはお越しいただいています。当院は院内処方も行っているので、待ち時間も含め利便性は高いと思われます。また、病院の診察スペースは案外狭く、雰囲気もざわついているので、家庭環境などの患者さんのプライベートな相談には不向きな一面があります。そうしたことも当院をお選びいただいている理由なのかもしれません。
ということは、クリニックの従来からの患者さんに加え、先生の患者さんも新患として積み上がっているということですね。
それだけではありません。承継のタイミングがコロナ禍だったこともあって、ワクチン接種や発熱外来がきっかけになったことや、新たに立ち上げたホームページをご覧になった方が新患として増えています。
訪問診療への対応について、どのように運営されているのですか。
往診は父が始めたものですが、昔の町医者は皆さん普通にやっていらしたんじゃないでしょうか。私も自分の患者さんは往診してあげたいと思っています。とはいっても、まだ病院から紹介された2人だけですけど。今後は看取りなどもあるでしょうから、ケアマネジャーや訪問看護事業所との連携も深めたいと思っています。
開業医となられて、私生活の変化はありましたか。
まず仕事以外のことに使える自由な時間が増えました。病院も基本は9:00~17:00勤務なのですが、診療前後の業務や会議なども多いので拘束時間は常態的に長くなります。クリニックに転じてからは、昼の休憩時間にスポーツジムに通ったり、共働きの妻をサポートするための家事の手伝いなどもできています。以前から飼いたかった猫も育て始めました(笑)。そして新たな趣味として休日はサーフィンですね。
サーフィンですか!?
サーフィンは神鋼病院を退職する少し前から始めたものです。とはいっても、月に1回が精々ですが、車で約2時間かけて和歌山の海まで行っています。
今回の事業承継では、承継の実務を山下明宏が担当し、新院長体制以後は、税務・会計を井関正司(税理士)が、人事・労務は井上秀之(社会保険労務士)がそれぞれメインでサポートさせていただいております。そうした日本医業総研グループのトータルの支援について、率直なご意見をお願いいたします。
他のコンサル会社を知らないという前提ですが、本社が大阪という安心感もあり、何度か会社にも訪問させていただきました。仕事は非常に丁寧で綿密という印象です。医業経営に専門特化しているグループだけに、山下さんはもちろん、他の方々の月1回の来訪時には毎回役に立つ新しい情報を提供していただいています。私にとってはとても心強いブレーンで、診療に集中することができています。
院長 竹田章彦 先生
院長プロフィール
医学博士
日本内科学会総合内科専門医
日本内科学会内科認定医・指導医
日本糖尿病学会専門医・指導医・学術評議員
日本糖尿病協会療養指導医
日本医師会認定産業医
2000年 | 名古屋市立大学医学部 卒業 神戸大学医学部第2内科 入局 高砂市民病院 |
2002年 | IHI播磨病院 |
2004年 | 神戸大学医学部研究科 |
2008年 | 石橋内科・広畑センチュリー病院 |
2009年 | 神鋼記念病院 |
2021年 | 竹田内科クリニック 開設 |