江戸時代より大阪天満宮の表参道として多くの参拝者で賑わい、天満青物市場を中心に商業を発展させた天神橋筋商店街。南北2.6㎞にも及ぶアーケード街は日本一の長さを誇るとされ、約600もの店舗が軒を連ねる。
佐藤内科クリニックは商店街のほぼ中央、JR環状線天満駅、地下鉄堺筋線扇町駅を至近とする4丁目に開設された。
佐藤公昭院長にとってはまったくの落下傘開業だけに、積極的に地域患者との関わりを深め、基幹病院、近隣クリニックとの連携に努めてきた。
早期に月次収支を黒字化すると、開業翌年には法人成りを果たしている。現在は常勤医師を1人雇用し、2診体制でフル稼働しながらも、佐藤院長はなお進化の手を緩めようとはしない。
常時2診体制での、専門性の高い医療提供が広域での集患に
天神橋筋商店街にクリニックを開設したのは2013年6月。立ち上がりから順調に業績が伸びていき、5年を経た現在の1日あたりの平均患者数は170人前後、最多で240人を超える日もありました。午後には、15時の開始時刻を待たずに商店街には患者さんが列をなす毎日です。アーケード街なので天候の心配は不要ですが、屋外での診察時間待ちは高齢者には存外な負担を強いることになり、頭の痛い課題となっています。
これだけの数の患者さんを私一人で診ていくのは到底不可能で、2年前から西出智博医師に常勤いただき、以後、2診体制で運営しています。また、昨年からは、数多い内視鏡検査に対応するため、内視鏡専門医師も増員しました。
西出先生が内科主任医長として勤務されていた大阪北逓信病院は、下部内視鏡やCT検査等を必要とする患者さんを紹介してきた連携先だったこともあって、先生とは旧知の間柄でしたが、病院閉鎖に伴い自ら当院での勤務を希望し着任されました。
また、西出先生はかつて虎の門病院分院肝臓センターで、碩学の士として知られる熊田博光先生の下で研鑽された経歴を持ちます。それだけに、ウイルス性肝炎へのアプローチは的確で、当院でも副作用を最少化した治療を実践し、多くの肝炎ウイルス患者さんの治療をされています。西出先生の加入によって、消化器内科での病院にも比肩する専門性の高さがこれまで以上に強化され、着実な増患と、広域からの集患につながっていると実感しています。
無難な地元開業より、都市部での飛躍の可能性にチャレンジ
開業を振り返ったときに、いずれは自分のクリニックを持ちたいという意識は潜在的に持っていたように思います。
北里大学を卒業後に郷里の九州に帰り、久留米大学医学部附属病院を経て福岡県済生会二日市病院に勤務していた私は、開業を検討するなら病院の近隣で外来患者さんを引継げればという漠然としたイメージを描いていました。実際、病院の周辺には多くの諸先輩が開業されていて、顔の見える連携のメリットを十分に享受されているように感じられました。
それでも、無難な道をあえて選ばず、大阪を開業場所としたのは、折角なら競争原理の働く都市部でレベルの高い勝負にチャレンジしたいという気持ちからでした。
大阪市は医師としてはまったく無縁の地でしたが、天神橋には私の妻の実家があり地元事情に精通しています。開業物件は義母が地元で偶然目に止めたものでした。なんの伝もない落下傘開業ですが、内視鏡を武器とする消化器内科の競合が少ないこと、何よりも圧倒的な人通り数とクリニックとしてわかりやすい立地でもあり、さほどの不安も抱かずに物件を決めました。
2年後に実感したコンサルタントの慧眼
日本医業総研は、物件を管理していた大手ハウスメーカーが過去に協業でクリニック開業を成功させてきたということでの紹介です。まず、私と義父、担当コンサルタントの山下明宏さんとの面談を持ちました。
当該物件は2階建ての1階部分で、床面積は約70㎡ですが、実現したい機能をすべて備えるにはとても狭く、しかも繁華街の中央という場所柄賃料はクリニックの一般常識からはかけ離れた金額です。
私の当初の構想は、血液迅速検査装置の導入、2階を大腸カメラも行える内視鏡専用フロアに、超音波エコーに慣れた技師の常勤採用、人事や医療事務を管理する事務長の採用などでしたが、血液検査装置を除き、すべて山下さんに却下されてしまいました。2階も借りるなどは言語道断、1階だけでも賃料が経営を圧迫すると思われる以上、初期の設備投資とランニングコストを極力セーブし、安定的な経営基盤を構築することが先決だと断言されるのです。豊富な開業実績を持つ山下さんの意見だけに、その言葉には失敗が許されないというコンサルタントの責任が感じられました。山下さんの意見を受け入れ、言われるままに開業準備を進めましたが、不完全な形での開業は逆にその後の頑張りの原動力になりました。同時に開業後の2年間で資金的な余裕をもって徐々に医療機能やスタッフを増強できた結果には、山下さんのプロの眼力を実感しました。
内視鏡と超音波エコー検査。強みの最大化を疾患の早期発見と医療介入につなげる
患者さんの大まかな疾患別受診では、消化器領域がおよそ6に対して生活習慣病を始めとする一般内科が4の割合です。
内視鏡の件数は、上・下部合わせ月間約300例。内視鏡専門クリニックとの比較ではやや見劣りしますが、1日170人の一般内科患者さんに対応しながらという条件下では最大限の実績数だと思われます。2階を賃借し、内視鏡センターとしてからは大腸にも対応できるようになり、内視鏡の専属医師を増員して、月曜から土曜まで週6日の稼働を実現しています。
とはいえ、開業初期に当院の経営を支えてきたのは内視鏡ではなく一般内科です。私が心がけてきたのは、患者さんの不調を全人的な視点から評価し、適切な治療を選択することです。たとえば、明らかな風邪の症状であっても、喉を視診して作業的に薬を処方するのではなく、丁寧に胸の音を拾う。加えて、どんなに混み合う時間帯であっても、他に日常生活で気にかかる症状を問いかけるようにしています。「最近、胃のあたりがシクシクと……」などの場合は、「じゃあ、エコーでお腹の様子を診てみましょうか」ということになりますし、しばらく健診を受けられていない方には血液検査をお勧めするようにしています。そこで、HbA1cに異常値が見られ糖尿病治療に切り替えるケースも少なからずあります。私にとっては当然の医療提供なのですが、プラスアルファのちょっとした気配りや声がけが、「佐藤内科はキチンと診てくれる」という地域の口コミにつながっているように感じられます。
ちなみに、超音波専門技師を常勤として以降の超音波エコーの実施は月間350例を超えますが、内視鏡と合せたがんの発見数は月間10例以上に及びます。先日も採血で異常がなかった方に念のためとエコーを当てると、腎臓に1㎝ほどの細胞がんが疑われる画像が認められました。すぐにCT画像センターに紹介した結果、エコーの所見が証明されたことで病院を紹介。腎部分切除術を終え、わざわざ来院された患者さんからは、「先生が早く見つけてくれて本当に良かった。ありがとう」の言葉をいただきました。これが冥利に余る喜びであり、私が目指してきた医療、提供するサービスが、地域の健康を守るという開業医の使命の一端を担っていることを実感します。
変革・創成の可能性を持ち続ける
一昨年の10月より、大阪市では胃がん検診で受診者が胃X線検査と胃内視鏡検査を選択できるようになりました。X線の造影精度では胃がんや食道がんの位置を正確に捕捉できないことに加え、機器の改良やセデーション処理などで不快感が軽減され、内視鏡への抵抗感が薄まってきたことが一般に周知されてきたことの表れではないかと思われます。当院でも、クリニック内外へ掲示している検査の映像や丁寧な説明で内視鏡への理解と受診のハードルを下げることに努めてきましたが、その積み重ねが先の実施件数に示されていると感じています。
事業成功の条件を平均以上の来院患者数と収益で判断するのであれば、当院もその条件を満たしているのかもしれません。このまま、高齢者の慢性疾患や専門性の高い消化器内科の需要に応えていくだけでも、現状維持は可能でしょう。
それでも、私はまだ改善の余地を数多く残していると感じますし、さらなる変革・創成に取り組んでいきたいと考えています。3年前の法人成りも、単に節税効果を期待するのではなく、事業拡大の可能性を視野に入れての経営判断です。具体的な計画には至りませんが、徐々に他の専門領域にウイングを広げて総合的な内科クリニックグループを形成することを夢に終わらせたくはありません。
クリニックの次なる成長フェーズへ向け、今年もまた山下さんのお世話になりそうです。
医療法人 佐藤内科クリニック
理事長・院長 佐藤公昭
院長プロフィール
日本内科学会 認定医
日本消化器病学会 専門医
日本消化器内視鏡学会 専門医
日本肝臓学会認定 肝臓専門医
日本ヘリコバクター学会 会員
北里大学 医学部 卒業
久留米大学医学部附属病院 消化器内科 入局
福岡県済生会二日市病院 内科・消化器科 医長
佐藤内科クリニック 開設