診療所開業 ~ 診療科別開業成功のポイント ~

◆糖尿病内科 編

 

一般的な内科を含めた競合が多いだけに、糖尿病内科の新規参入は容易ではありません。逆に専門医として地域の信用をつかめれば患者さんが長期定着し、右肩上がりの成長が見込まれるのが糖尿病専門内科の特徴といえます。大切なのは、立ち上がりの不安を軽減する事前の開業環境準備です。また薬物処方だけにとどまらない専門性を食事指導、運動療法などの生活習慣改善等で発揮することが大きな差別化要因となります。

 

≪ポイント≫

・事業計画では、診療方針に則り一般内科と糖尿病患者さんとの比率をどのように設定するかが重要

・立ち上がりの遅い糖尿病内科では、現勤務先患者さんを定期受診者として引き継げる条件下でのエリア選定を優先

・一般的な内科との競合が避けられないだけに、専門診療科としての生活習慣改善、服薬指導、食事指導、運動療法などの実践が信用と定着、差別化につながる

 

③職員配置・採用計画

 

 糖尿病内科の職員配置、採用計画については、管理栄養士の配置の検討が他の診療科と異なるポイントとなります。
 食事制限を必要とする患者さんへの質の高い栄養指導を行うことは医療提供上とても重要です。同時に薬の処方のみを行っている診療所との差別化戦略にもなりますので、栄養指導を重視する場合、管理栄養士は、開業時からの配置が望まれます。しかし、開院当初は来院患者さんの見通しが不安定で、栄養指導のオーダーも未知数なのが実態です。そのため、開業初期は曜日や時間帯を設定して、その枠だけ非常勤で勤務していただける管理栄養士を見つけていくということになります。求人広告で公募しても、診療所の都合に合わせて勤務してくれる方を採用することは簡単ではありません。そのため、可能な限り勤務先病院の栄養部門や管理栄養士とのパイプを大切にし、病院がアルバイトを認めているのであれば、非常勤でサポートしていただくなど、人脈に頼った採用活動が効果的ですし、技術面でも安心感があります。その場合、あくまで本業が休みの時の非常勤勤務となりますので、時給や日給を高めに設定して、お互い気持ちよく仕事をしたいものです。また、そうした個別の診療所ニーズに対して、一部の時間帯だけ管理栄養士を派遣するサービスを行っている医療関連企業もあるので、利用を検討しても良いと思われます。

 開業前の勤務病院から患者さんを引き継いでの開業であれば、ある程度の栄養指導件数の見通しも立ちますので、管理栄養士の配置も検討しやすくなります。ただし患者さんの満足を得られる栄養指導ができる管理栄養士は、公募での面接ではなかなか判断が難しい面がありますので、可能な限り、勤務先の管理栄養士などを通じて、採用を考えたいものです。また、栄養指導件数が相当数見込めるのであれば、思い切って常勤の管理栄養士を周辺の給与相場よりやや高い水準で採用する方法も考えられます。

 看護師については、常時1~2名体制を確保すれば問題ありません。ただし、看護師に関しては、糖尿病治療では採血業務が多く発生しますので、患者さんとのコミュニケーションに長けた人、患者さんに苦痛の少ない採血を得意とする看護師を採用することが望まれます。さらに、健康運動指導士など糖尿病患者さんの運動指導などに役立つ資格を持つ看護師がいれば、定期的に受診が必要な糖尿病患者とのコミュニケーションに大きく寄与します。看護師採用は、どの診療科でも困難なことから、病院勤務中に、開業後に採用したい看護師の目途を立てておくことが有効な手段となります。

 受付スタッフは、常時2名体制を確保すれば、患者さん対応や電話応対は十分です。医療機関での勤務経験者を1人は確保したい場合は、病院勤務中に、医療事務能力や接遇能力に長けた人がいれば、開業後の採用を打診することも検討手段の一つです。また、糖尿病内科診療所では、定期的に通院する患者の割合が高いことから、受付も看護師も、接遇能力が高い人を常勤スタッフとして確保し、患者さんとの人間関係を良好に築くことにより、口コミによる集患につながるケースが私どもの開業支援の成功例として多く見受けられます。

 

 

 

④プロモーション戦略

 

 糖尿病内科のプロモーション戦略は、糖尿病治療を必要とする患者さん(新患)確保のルートづくりと治療継続に向けた効果的な施策を図るのがポイントになります。

(1)開業前のプロモーション

 診療所開業を地域に知っていただくための一番の手段は、住民の皆様にお越しいただき、診療所の雰囲気や院長、スタッフの人柄などを直接感じていただくことです。その場での好印象から、すでに地域への口コミがスタートします。そのお披露目の機会となるのが、開業直前の週末、原則的に土曜日・日曜日の2日間を利用して実施する内覧会です。

 開業直前の内覧会の実施は、多くの診療科で浸透していますが、内覧会の告知のために、一次診療圏(徒歩通院圏内、半径約500m)には、診療所のリーフレットのポスティングを、二次診療圏(開業エリアの競合環境や人口により変動。概ね半径1kmから2km圏内)には新聞折込みチラシによる告知を行うことが一般的です。

 糖尿病内科に専門性を発揮する競合がなく、かつ通院が十分可能なエリアに、相応の予算を確保した上で積極的に広告を展開します。

(2)開業後のプロモーション

 開院後については、糖尿病治療を開始する患者さんの確保のために、前勤務先病院で非常勤勤務の枠を残し、病院で新患の来院があれば、自院への通院に誘導することが現実的な対応と考えられます。前勤務先病院に糖尿病患者の新患が多く来院する場合は、同僚医師や看護師、クラークなどの「糖尿病内科チームスタッフ」に対する、祝事や季節の進物も大切な営業活動となります。

 環境因子や体質などが要因となる糖尿病は加齢に伴い発症者が多くなる慢性疾患で、医療機関にかかっている患者さんの大勢は高齢者です。そうした場合の最大の広告は、患者さんの口コミであることから、1人ひとりの患者さんに対して満足度を高める対応が地味ながらもっとも効果的といえます。効果測定として、初診時の問診表に、「当院受診のきっかけ」を質問項目として入れておき、「家族や知人の紹介(口コミ)」という来院動機の開院後の増減を定期的にチェックすることが重要になります。

 そのほか、長期にわたる糖尿病治療に将来の不安を感じる方のために、月1回程度の健康教室などの場を設けて情報提供を行い、患者さんの不安を取り除く工夫や、ボランティアによる予防医療のための栄養指導や運動療法への参加を促すなども大切な取り組みとなります。糖尿病内科での患者さんの離脱を防ぐポイントは、患者さんと先生との信頼関係に尽きます。かかりつけ医として、どう患者さんに寄り添い、重症化を防ぐ治療と生活習慣をともに考え実践していく地道な活動が何よりも大切になります。

 また、経営戦略や立地選定の項でも述べましたが、ターミナル駅で人の流れが集まるポイントで開業された場合は、自院ホームページでの情報配信が主なプロモーション活動となります。インターネットで広範囲の情報から自身の症状に的確に対応してくれそうな診療所を探す人に向けて、自院ホームページが上位に露出できるような対策が効果的です。私どもの開業支援事例においても、開院当初からインターネットの専門広告代理店に依頼して「Google」や「Yahoo」検索エンジンに対する「リスティング広告」を実施。来院につながると思われるキーワードを数百個設定し、そのキーワードで検索した方に自院のホームページを見てもらえる動線をネット上に作ることで、一定の成果を上げています。

 

 最近では、先生自身がホームページの更新を簡単にできるシステムを特徴にした商品もあり、私どもが開業をご支援した先生のなかにも、定期的にブログを更新しておられる方がいらっしゃいます。また、自院のホームページ管理画面をこまめにチェックされ、コンテンツ別の閲覧数の変化などから、掲載情報の深堀りなどコンテンツの充実を図っておられる先生もいらっしゃいますが、「Google」などでの検索順位を上位に押し上げることは、広報活動としてのホームページ運用の費用対効果を高める意味においてもとても有効な取り組みです。

 

 

~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~

 

★次回は 小児科の経営戦略・立地選定 を掲載予定です

 

 

<過去のブログ>

消化器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/6月更新分

消化器内科 ②事業計画        2023/7月更新分

消化器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/8月更新分

循環器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/9月更新分

循環器内科 ②事業計画        2023/10月更新分

循環器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/11月更新分

呼吸器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/12月更新分

呼吸器内科 ②事業計画        2024/1月更新分

呼吸器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/2月更新分

糖尿病内科 ①経営戦略・立地選定   2024/3月更新分

糖尿病内科 ②事業計画        2024/4月更新分

 

 


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