診療所開業 ~ 診療科別開業成功のポイント ~

◆糖尿病内科 編

 

一般的な内科を含めた競合が多いだけに、糖尿病内科の新規参入は容易ではありません。逆に専門医として地域の信用をつかめれば患者さんが長期定着し、右肩上がりの成長が見込まれるのが糖尿病専門内科の特徴といえます。大切なのは、立ち上がりの不安を軽減する事前の開業環境準備です。また薬物処方だけにとどまらない専門性を食事指導、運動療法などの生活習慣改善等で発揮することが大きな差別化要因となります。

 

≪ポイント≫

・事業計画では、診療方針に則り一般内科と糖尿病患者さんとの比率をどのように設定するかが重要

・立ち上がりの遅い糖尿病内科では、現勤務先患者さんを定期受診者として引き継げる条件下でのエリア選定を優先

・一般的な内科との競合が避けられないだけに、専門診療科としての生活習慣改善、服薬指導、食事指導、運動療法などの実践が信用と定着、差別化につながる

 

②事業計画

 

 糖尿病内科の事業計画における重要なポイントは、糖尿病患者さんと一般内科患者さんの外来受診比率をどのように設定するか、また開業初年度の糖尿病来院患者数の伸びをどう予測するかです。

 前項の呼吸器内科と同様に、糖尿病の専門的な治療を希望される患者さんの診療単価は非常に高くなる傾向が強く(一般内科の約4,500円に対し、糖尿病内科は高いケースで約13,000円)、受診比率を高く設定すると、少ない来院患者数で収入計画が大幅に上昇します。

 この診療単価の高さは開業初年度の糖尿病内科の患者数の伸びの設定値にも影響します。収入は診療単価×1日の診療人数×月間稼働日数で掛け合わされていくので、1日1人の増患だけでも収入全体に与えるインパクトは大きくなります。一般内科では仮に患者が1日1人増えた場合だと、4,500円×20日(月稼働日数)=月間90,000円の収入増になりますが、糖尿病内科では、13,000円×20日=月間260,000円もの増収となります。1人の違いでの月額170,000円の差は前項呼吸器内科を上回ります。

 もちろん、糖尿病内科の診療単価が高いことの一方で、血液検査にかかわるコストやインシュリン注射などにかかわる材料費が発生し原価率(収入の増加とともに増える経費で、薬品材料や外注検査費がこれにあたります)を引き上げますので、収入がそのまま増益というわけではありません。糖尿病内科では、院内で行う血液検査機器について一般内科ではあまり使われない機器を導入することが多く、試薬などのランニングコストが事業計画の原価率に影響するので、事前の確認が必要になります。

 また、1日当たりの来院患者数の推移については、前勤務先から患者さんを引き継げる立地で開業するケースと、患者見込みがゼロスタートの落下傘開業では、立ち上がりに大きな差が生じます。開業後の事業の立ち上がりが悪いという相談を持ち掛けられる際に、開業前に立てられた事業計画書を拝見することがありますが、問題となる部分は、やはり患者数の推移の読みの甘さです。そうした事業計画のなかには、1年目の1日当たり来院患者数を年単位で設定されているものが散見されます。しかし、仮に年間の1日当たり平均来院患者数が20人と仮定した場合、開業初月の1日当たり平均来院患者を5人とし順調に右肩上がりで推移したとすると、1年後の1日あたり来院患者数は35人まで増やさなければならないことになります。前勤務先から患者さんを引き続き診療できる環境であれば、1日当たり来院患者数35人というのは現実的かもしれませんが、糖尿病患者の場合は、月1回の通院頻度となることが多く、1日35人の来院患者のすべてが糖尿病とした場合に、月間20日診療の仮定で合計700人の患者さんを抱えていなければならないという計算になります。1年間でこれだけの糖尿病患者さんを獲得することは容易ではありません。そのため、経営戦略、立地選定の項で述べたように、前勤務先からの継続通院患者の確保、もしくは地域の専門病院に非常勤で勤務して、自院に新規の糖尿病患者を逆紹介する流れを作ることが重要となるわけです。

 

 

 人件費に関しては、糖尿病を専門とする診療所であっても、人員配置は一般内科と同様、受付は常時2名、看護師は常時1名の体制で事業計画上の人件費計画としては問題ありません。ただし、糖尿病患者さんへの栄養指導の実施など、管理栄養士の採用・配置をどう考えるかが、人件費に影響します。一般的には、開院当初から栄養指導が必要な患者さんがそれほど多く集まるわけではありませんので、月2回や週1回といった栄養指導日を設定し、その日数に合わせて管理栄養士を非常勤勤務で雇用することになりますが、的確な栄養指導のできる管理栄養士の報酬相場をもとに人件費計画に盛り込んでおく必要が生じます。

 経費内容については、経営戦略、立地選定で述べたように、広域から患者さんを集める戦略が奏功するケースが多いことから、広告予算を多めに確保する必要があります。インターネット広告に力点を置く場合、広告予算の上限を設定し、その範囲内でメリハリの効いた配分を心がけてください。

 資金計画(開業時の貸借対照表を参照)に関しては、医療機器の投資額においては、糖尿病内科ではグルコース分析装置や血圧脈波測定装置など一般内科ではあまり目にしない医療機器を導入することが多いため、実際に導入を検討する医療機器をもとに予算設定しておかないと調達資金が不足する事態にもなりかねません。

 医療機器を一式2,000万円などざっくりと設定した事業計画書を見ることがありますが、導入予定の医療機器の種類ごとに実態に即した予算を設定しておかないと、価格交渉がうまくいっているかどうかの判断もつきませんので、やはり、糖尿病内科診療所の開業支援経験が豊富なコンサルタントや会計事務所などの協力を得て精緻な事業計画を作成されることをお勧めします。

 私どもで事業計画を作成する際は、先生の医療提供上本当に必要とする医療機器があれば、導入する前提で資金計画を作成し、収支のバランスと実際の開業準備が進むなかで医療機器の価格交渉を行い予算に収まるかどうかを見極めながら、最終的に導入する医療機器を確定させることになります。

 また、運転資金をどれだけ確保するかという点については、前勤務先から患者さんを継続的に診るスタイルで開業する場合を除いては、事業の立ち上がりに一定の時間がかかることが想定されますので、最低でも開業後の1年間分の月次の収支計画を立てて、慎重に開業準備を進めていただくことが重要です。

 

 

~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~

 

★次回は 糖尿病内科の職員配置・採用計画 を掲載予定です

 

 

<過去のブログ>

消化器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/6月更新分

消化器内科 ②事業計画        2023/7月更新分

消化器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/8月更新分

循環器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/9月更新分

循環器内科 ②事業計画        2023/10月更新分

循環器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/11月更新分

呼吸器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/12月更新分

呼吸器内科 ②事業計画        2024/1月更新分

呼吸器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/2月更新分

糖尿病内科 ①経営戦略・立地選定   2024/3月更新分

 


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