◆消化器内科 編
苦痛の少ない内視鏡の普及や、健診・人間ドックでの上部消化器官内視鏡検査が一般化したことで、内視鏡検査へのハードルはかなり低くなりました。よって、これからの消化器内科の新規開業では、この内視鏡の取扱いが事業計画や立地選定に大きく影響することになります。消化器内科で成功された先生のなかには、消化器疾患の一般外来と内視鏡センターを別施設で対応し、提供する医療の幅広さと専門性を同時にかなえているケースもあります。
≪ポイント≫
・内視鏡を導入しない場合は、専門性より「かかりつけ医」を意識
・上部内視鏡だけでは、専門性という差別化要因にはなりにくい
・上部・下部内視鏡(ポリペク)を実施する場合は、広域に集患可能なターミナル性に富む立地で、
「内視鏡専門クリニック」を打ち出すことで優位性を発揮
③ 職員配置・採用計画
消化器内科のスタッフ配置、採用計画において意思決定しておきたい前提は、内視鏡検査の取り組み方針を明確にすることです。一般の外来診療時間のなかで上部内視鏡、下部内視鏡を組み込むか、上部内視鏡は午前の外来診療開始前に時間枠を設定して実施し、午後の外来診療開始前に、下部内視鏡検査時間枠を設定して実施するか、内視鏡は上部のみ、あるいは内視鏡を導入しない、といった運営の基本方針がスタッフ配置に大きく影響します。
外来と並行して内視鏡検査を実施する場合は、先生が外来診察の合間に内視鏡検査を実施するので、内視鏡の受診患者さんへの対応と、一般外来の受診患者さんが院内に混在することになります。そのため、内視鏡検査が頻繁に入る前提において、内視鏡の前処置、検査準備のために内視鏡室周りを中心業務とする看護師と、一般の外来患者さんをフォローする看護師が必要となるため、人員配置を厚めにしておかなければなりません。
一般的には内視鏡室周りをフォローする看護師が1~2名、外来のフォローで1~2名の看護師の配置が必要になるので、ピーク時には4名の看護師が勤務することになります。
また、下部内視鏡のなかでも、特にポリペクをフォローするためには、医療安全を確保する意味でも、下部内視鏡に経験のある看護師を確保したいものです。看護師採用は、どの診療科でも苦戦していることから、病院勤務中に、開業後に採用したい看護師の目途を立てておくことも有効な手段となります。
時間帯を決めて内視鏡検査を実施する場合は、検査時間帯と外来診療時間帯が分かれるので、看護師の配置は、常時1~2名でも十分に運営可能と考えられます。また、上部内視鏡だけであれば、内視鏡メーカーによる開業前研修を受けることで未経験者でも対応は可能と思われます。
内視鏡を実施しないのであれば、一般的な内科と同様に看護師は常時1名で運営できます。受付スタッフも、常時2名体制を確保すれば、患者さん対応や電話応対には十分です。医療機関での勤務経験者を1人は確保したい場合は、病院勤務中に、医療事務能力や接遇能力に長けた人がいれば、開業後の採用を打診することも検討手段の一つです。
また、ターゲットとなる患者さんの年齢層が比較的高いので、どの職種についても年齢に合わせたコミュニケーション能力が求められます。
④プロモーション戦略
消化器内科の場合、内視鏡検査の実施がプロモーション戦略にも大いに影響します。内視鏡検査を実施する場合は、広域からの集患が必要となりますので、ホームページでの情報配信やインターネット機能を最大限に活用した広告が必要となります。
(1)開業前のプロモーション
診療所開業を地域に知っていただくための一番の手段は、住民の皆様にお越しいただき、診療所の雰囲気や院長、スタッフの人柄などを直接感じていただくことです。その場での好印象から、すでに地域への口コミがスタートします。そのお披露目の機会となるのが、開業直前の週末、原則的に土曜日・日曜日の2日間を利用して実施する内覧会です。
開業直前の内覧会の実施は、多くの診療科で浸透していますが、内覧会の告知のために、一次診療圏(徒歩通院圏内、半径約500m)には、診療所のリーフレットのポスティングを、二次診療圏(開業エリアの競合環境や人口により変動。概ね半径1kmから2km圏内)には新聞折込みチラシによる告知を行うことが一般的です。
内視鏡検査を強みに差別化を図る場合は、競合の配置状況を考慮し、バッティングを避け、かつ通院が十分可能なエリアに、相応の予算を確保した上で積極的に広告を展開します。
医療機関には広告規制があることから、開業の告知は最大の広告機会といえます。認知度を一気に高めるためにも、開業時に積極的なアピールをしたいところです。
(2)開業後のプロモーション
開業後については、自院ホームページでの情報配信が主なプロモーション活動となります。最近では、先生自身がホームページの更新を簡単にできるシステムもあり、私どもが開業を支援した先生のなかにも、定期的にブログを更新しておられる方がいらっしゃいます。医療に係わる情報提供という機能も大切ですが、地域や患者さんに、白衣を脱いだ素顔の先生の人柄が伝わるようなメッセージの発信が利用者の安心を生み、受診のハードルを下げます。これが病院にはない、診療所らしい地域コミュニケーション戦略です。
また、自院のホームページ管理画面をこまめにチェックされ、コンテンツ別の閲覧数の変化などから、掲載情報の深堀りなどコンテンツの充実を図っておられる先生もいらっしゃいますが、Googleなどでの検索順位を上位に押し上げることは、広報活動としてのホームページ運用の費用対効果を高める意味においてもとても有効な取り組みです。
医療機関の最大の広告は、患者さんの口コミであることから、1人ひとりの患者さんの満足度を高める対応が地味ながらもっとも効果的といえます。そこでの効果測定として、初診時の問診表に、「当院受診のきっかけ」を質問項目として入れておき、「家族や知人の紹介(口コミ)」という来院動機の開院後の増減を定期的にチェックすることが重要になります。また、立地条件や周辺環境などにもよりますが、人通りの多い道路などに面した診療所の場合は、内視鏡検査を実施していることを、人目のつく場所にサイン看板を設置して告知することも有効です。内視鏡検査の受診に高いハードルを感じる方に向けて、院内の掲示板で、苦痛を最少化する工夫をアピールしたり、月1回程度の健康教室などで情報提供を行い、患者さんの不安を取り除くといった工夫、また行政が実施している胃がん健診実施医療機関への露出が漏れなくなされているかのチェックも必要になります。
~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~
★次回は 循環器内科の経営戦略・立地選定 を掲載予定です
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