新型コロナ禍で発生! 労務トラブル事例の情報発信

 

Ⅰ 【スタッフと院長の問答編】

 

事例①

スタッフ(S) パートでも、休んだ日に休業手当の支払いがないのはおかしいのではないですか!?

 

先生(D) 就業規則でパートの勤務日は「シフトにより定める」と決まっているのは知っていますね。新型コロナが怖いから……と、シフトに入らないことにあなたが合意したのですから、本来休業手当を支払う義務はないのです。シフトに入っていた人には、休業手当を支払っています。希望があれば、有休を使うことも認めていますから、それを利用してはいかがですか?

 

◆社労士からひと言アドバイス◆

事業主都合で休ませたのか、労使合意のもとシフトに入らなかったのかにより、休業手当の支払い義務にも違いが出ます。休業手当の考え方や、その支払い方を整理しておきましょう。

 なお、休業手当は平均賃金の60%を支給すれば良いのですが、就業規則に記載がないと、「なぜ100%ではないのですか?」と満額支給を求められるケースもありますので注意が必要です。

 

事例②

 患者さんが来ないことを理由に、勝手に早めにお昼に入るスタッフがいます。

 

 労働時間は、「9時~13時」と決まっています。患者さんがいなくても、13時までは職場を離れないのがルールです。もし、早くお昼に入るのでしたら、就業規則の「繰り上げ・繰り下げ」を利用して、早くお昼から戻って仕事をすることはできます。ただし、その場合は必ず私に声をかけてください。

 

事例③

 家族の職場で新型コロナ陽性者が出たのですが、私は休んだ方がいいですか?

 

 家族のご様子やご自身の体調は本人にしか分からない部分があります。少しでも感染のリスクがあると感じた場合や、体調が普段と違うという場合には、ご自身の判断で休みを申請するようにしてください。判断に迷う場合は臨機応変に対応しますので、いつでも相談してください。

 

◆社労士からひと言アドバイス◆

 実際に陽性が出ていない段階で、命令により休ませると、休業手当の支払い義務が発生します。体調不良を理由に休むような場合は、事業主命令ととらえられないよう伝え方を工夫しましょう。

 

事例④

 家族が体調不良で大変なので、急ですが明日有休をいただけませんか?

 

 ご事情は分かりますので、休みを取るのは仕方がありませんが、就業規則で有休はシフトが決まる前までに申請することになっています。ですから、今日の申請で明日の有休取得を認めることはできません。他のスタッフと不公平が出てはいけませんから、今回は欠勤という扱いになりますが、それは了承いただけますね?

 

◆社労士からひと言アドバイス◆

 有休の申請ルールは、あらかじめ決めておかなければ、自由に取得する風土が生まれ、スタッフ間の不公平を生むことにもつながります。申請期限や、事後申請の有休を認める・認めないについては、ルールを決め、周知しておくことが大切です。

 

 

Ⅱ【院長と社会保険労務士の問答編】

 

事例⑤

 ダブルワーク先にクリニックの感染症対策などを話しているスタッフがいる。

 

社労士(LS) 近年ダブルワークをするスタッフも増えていますが、それは機密情報を漏洩しないということが大前提です。まずは、厳重注意を行うとともに、本人にも始末書を提出してもらう必要があるでしょう。何度も繰り返される場合は、解雇の可能性も出てきますので、指導した記録は残しておくようにしてください。解雇を検討する場合は、就業規則に解雇要件をしっかり記載しておくようにしましょう。

 

事例⑥

 退職希望のスタッフが、「解雇にしてほしい」と言ってきたが、応じてもいいか?

 

LS コロナ禍において、事業主が休業手当を払うより、辞めてもらって雇用保険から「失業給付をもらった方が得」というような情報が出回りました。自主退職では3カ月間はいわゆる失業給付の申請ができませんが、解雇であれば、それを待たずに申請できます。ただし、解雇をするには一定の手続きが必要であり、雇用保険の手続きにより解雇をしたという記録もハローワークに残ります。後々トラブルになる可能性がある場合は、安易に事実と異なる対応はしない方が良いと考えます。

 

事例⑦

 マスクや手洗い洗剤などを少しずつ持ち帰るスタッフがいるようだ……。

 

LS マスクや手洗い洗剤は、クリニックの大切な財産です。院長が寛容でいると、スタッフの意識が少しずつ麻痺し、ちょっとくらい良いのではないか、という感覚になることがあります。また、少しの緩みが、金銭トラブルなどの大問題を引き起こす恐れもあります。

 備品の持ち出しや許可のない使用は厳に慎むことを、クリニックのルールとして周知しておかれることをおすすめします。問題が大きくなった場合には、そのルールを根拠に解雇を検討することもできます。

 

事例⑧

 売上が大幅に下がっているが、スタッフの給料を減額できるか?

 

LS 単純に月給を下げるのは、不利益改定にあたり、役員報酬の減額などの経営努力なしに減額するのは難しいと考えられます。一方で、賞与は業績配分の考え方を取りますので、売上が下がっている場合は、調整しやすいと思われます。スタッフのモチベーションも考慮し売上の減少具合とのバランスでご判断ください。

ただし、就業規則や労働契約書で「賞与は年○か月分を支給する」などと約束している場合は、原則支払わなくてはなりませんのでご注意ください。もし、業績配分の考えが浸透していない場合は、この機会に表記を見直されてはいかがでしょうか。

 

 

~株式会社日本医業総研 発行物 2ndStage Vol.11 CONSULTING EYE コンサルティングの視点 より~

 

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