院長のためのクリニック労務 Q&A
~年次有給休暇編9~
Q:学会出席の休診日に有休を消化させたいが、問題ないか?
A:問題ありません。「計画的付与制度」を導入すれば、学会で休む日を有休とすることが可能です。
計画的付与制度とは
計画的付与制度とは、労使協定(資料4参照)を締結することにより、特定の日に有休を付与することを認める制度です(労基法第39条第5項)。
対象とできるのは、保有している有休のうち5日を超える部分です。つまり、最低5日の有休をスタッフが自由に使用できるようにしておけば、残りの有休に関しては労使協定に従った有休取得を義務づけることができるという制度です。すなわち、保有している有休日数が10日の職員は5日まで、14日の職員は9日まで、事業主が指定する日に付与することができます。
計画的付与制度の留意点
ここでの注意点は、計画的な有休の付与日は、あくまでもクリニックの所定の労働日に設定するということです。労働契約上すでに休日として定められた日を計画的付与の対象とすることはできません。
計画的付与に関する労使協定において、具体的な有休付与日を定める時季や手続きを決定しておく必要があります。この労使協定により、労基法第39条第4項の「労働者の時季指定権と使用者の時季変更権」の効力は削減し、その決められた日を変更することなく取得することになります(昭63.3.14基発150号、三菱重工業長崎造船所事件 福岡高判平6.3.24)
学会の期日は、年初か少なくとも数か月前にはわかっていることが多いと思われます。そのため、大体の期間と日数を決めておいて、具体的な期日は「〇か月前までに知らせる」ということでも構いません。
労基法で義務付けられた「年5日間」の有休取得
2019年の労働基準法改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与されるスタッフに対して、年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
年5日の有休が取れていないクリニックでは、学会参加の日に有休を当てることが法令順守にもつながりますので、積極的にご検討ください。尚、学会参加による休診が年に5日もない場合は、「夏期休暇」や「その他の臨時休診」などとの組み合わせも可能です。(資料4 計画的付与に関する労使協定の例 第2条(1)イ、ロ参照)
有休がないスタッフや少ないスタッフの取扱いは
入職して間もないスタッフなど、有休が「まだない」もしくは「残日数が少ない」スタッフについては、計画的付与を行うと個人で自由に行使できる5日分の有休を確保できない場合があります。このようなスタッフについては労使協定において、計画的付与の対象者から外しておく必要があります(昭63.1.1基発1号)。
資料4 計画的付与に関する労使協定の例
有休の計画的付与に関する協定書
○○クリニック(以下、「医院」という。)と職員代表 (以下、「職員代表」という。)は、○○年度における年次有給休暇の計画的付与に関し、次のとおり協定する。
(目的)
(計画付与日の決定手順) 第2条 医院は、次の手順で、各職員に計画付与する休暇日を指定する。 (1)職員が有する本年度の年次有給休暇のうち「5日」については、次の時季に取得するものとする。ただし、ロ.については各シフト区分に応じて、医院が調整・決定し、〇か月前に各職員に通知する。
(対象除外)
(有効期間)
年 月 日 ○○クリニック 院長 印 |
まとめ
1.計画的付与制度とは、特定の日に有休を付与することを認める制度であり、対象とできるのは、有休のうち5日を超える部分に限られる。
2.労働契約上すでに休日として定められた日を計画的付与の対象とすることはできない。
3.有休が「まだない」もしくは「残日数が少ない」スタッフについては、5日分の年休を確保できない場合があるため、計画的付与の対象者から外しておく必要がある。
書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より
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