院長のためのクリニック労務 Q&A
~年次有給休暇編8~
Q:前日に有休を申請してくるスタッフにも希望どおり与えなければならないのか?
A:時季変更権の判断をする時間的余裕がなく、翌日の正常な運営を妨げる場合は、必ずしもその日に与える必要はありません。
時季変更権の行使
事業主には、「事業の正常な運営を妨げる」場合には従業員から申し出のあった有休の取得時季を変更できるという権利があります(労基法第39条第4項ただし書)。しかし、前日に有休を申請された場合、「事業の正常な運営を妨げる」かどうかを判断する時間的な余裕がなく、また翌日の代替要員の確保も容易なことではありません。結局は時季変更権を行使するか、別の日にしてほしいとお願いすることになる可能性が高くなってしまいます。
そうなると、労使双方に時間と労力がかかり、結局スタッフも希望日に有休が取れないという事態になってしまいます。そうならないようにするためにも、就業規則などで、「シフトを作成する前月末までには申し出ること」などのルールを設定しておくとよいでしょう。このように、原則的な取扱いとして事前申請期限を限定化することは合理的な範囲内においては認められると考えられています(電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18)。ただし、「3か月前までに申し出ること」などあまり長い期間の設定は、有休の取得を抑制しているとみなされてしまいますので、避ける必要があります。
一方で、前月末までの申請をルールとしていた場合でも、スタッフが期限を過ぎてから申請してくる場合があります。有休は非常に権利性の強い性質がありますので、申請期限を切っているという理由だけをもって、直ちに有休を与えないということはできません。「時季変更権の行使」を検討する時間的余裕がある場合は、必要に応じてその日に与えるか、別の日にしてもらうかを判断する必要があるでしょう。
申し出ルールを設けた場合の注意点
なお、シフトを作成した後でも、身内に不幸があったような場合や、急に病気になって入院が必要になった場合などのために有休を使用するということであれば、申し出の時季にかかわらず認めてあげてもよいでしょう。ただし、その場合は「理由を把握した上で、やむを得ない事情に限り認める」という一定の判断基準は必要だと考えられます。
シフト作成後の申し出による変更が慣例的になり、風邪をひいて休んだ日まで当然のごとく有休扱いにするようなことになると、「シフトを作成するまでに」というルールが形骸化してしまいます。
このように有休の取得理由によっても時季変更権を行使するか否かが検討されることがあるため、取得理由も正確に告げてもらうことを取り決めておきましょう。(年次有給休暇編3資料1参照)。
まとめ
1.事業の正常な運営を妨げるかどうかを判断するために、申請時季に関するルールを定めておく。
2.有休の申請ルールは、「シフトが決まるまでに申請すること」など取得抑制にならない程度の期間を設定する。
3.シフト作成後の申し出を頻繁に認めると、変更が慣例的になり、申請ルールが形骸化されてしまうので注意が必要。
書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より
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