院長のためのクリニック労務 Q&A
~年次有給休暇編5~
Q:スタッフが1時間単位の有休を申請してきたが、応じなければならないのか?
A:労使協定の締結により、合意していない場合は、必ずしも与える必要はありません。
時間単位の有休とは
有休は、労働者の心身の疲労を回復させるという意味で、1日単位で取得することを原則としています。ただし、労使協定(資料2参照)を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で有休を与えることができます(分単位で与えることはできません)。
資料2 労使協定のサンプル
時間単位の年次有給休暇に関する労使協定 例
〇〇クリニックと職員代表○○○○は、時間単位の年次有給休暇に関し、次のとおり協定する。
(対象者) 第1条 時間単位の年次有給休暇(以下、「時間単位年休」という。)は、以下を除く すべての職員を対象とする。 (1)契約職員 (2)パート・アルバイト
(日数の上限) 第2条 時間単位年休を取得することができる日数は、各年度において職員に付与 されている年次有給休暇(前年度未消化の年次有給休暇を含む)のうち 5日以内とする。
(1日の時間数) 第3条 時間単位付与の対象となる年次有給休暇の1日の時間数は、8時間とする。
(取得単位) 第4条 時間単位年次有給休暇の取得単位は、1時間とする。
(取得時の賃金) 第5条 年次有給休暇を時間単位で取得した場合の賃金は、所定労働時間労働した場合に 支払われる通常の賃金の1時間あたりの額に、取得した時間単位年休の時間数を 乗じた額を支払うものとする。
(有効期間) 第6条 本協定の有効期間は令和〇年4月1日から令和〇年3月31日までの1年とする。 ただし、この協定の有効期間満了の1か月前までに、クリニックまたは職員 のいずれからも異議の申し出がないときは、この協定はさらに1年間有効期間を 延長するものとし、以降も同様とする。
令和 年 月 日
〇〇クリニック 院長 〇〇 〇〇 印 職員代表 〇〇 〇〇 印
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時間単位の取得は、それを使用者が認めるかどうかがカギ
労使協定が締結されているということは、使用者・労働者がともに、「時間単位の有給取得」に合意しているということです。労働者にとっては有休の使い方の選択肢が増えるため、合意しない理由はあまりないでしょう。一方で、使用者にとっては、「管理が煩雑になる」というデメリットが生じます。例えば、スタッフ全員が、「この人は●日間と●時間、有休が残っています。その後、別の日に●時間使いました」というような使い方をすると、管理の負担も増えることでしょう。時間単位で有休を取得できるようにするかは、使用者側が合意するかどうかによるところが大きいといえます。
時間単位の有休は主婦にとって有り難い側面も
一方、主婦のスタッフからは、しばしば、「2時間休みを取って、銀行の用事を済ませたい」「子どもの学校の用事で1時間早く帰りたい」といった要望が出ることがあります。
丸1日休みを取るとなると代わりのスタッフに出勤してもらう必要が出てきますが、1時間や2時間であれば同じ日に出勤している他のスタッフでカバーできるため、有休が取りやすいという側面もあるようです。スタッフの働きやすさという観点では、管理の問題がクリアできるようであれば、導入を検討する余地はあると考えられます。
時間単位の有休取得の注意点
「時間単位の有休」であっても有休であるため、事業の正常な運営を妨げる場合は使用者による時季変更権が認められます。ただし、日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできません。
また、計画的付与として時間単位の有休を与えることもできませんので、注意が必要です。
まとめ
1.有休は1日単位が原則であるが、労使協定を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で有休を与えることができる。
2.時間単位で有休を取得できるようにするかどうかは、使用者側が認めるかどうかによるところが大きい。
3.時間単位の有休は、スタッフが使いやすい反面、管理が大変になるため、慎重な検討が必要である。
書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より
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