院長のためのクリニック労務 Q&A
~年次有給休暇編1~
Q:スタッフが入職直後に有休を申請してきたが、与えなくてはならないのか?
A:入職日から半年間は与える必要はありません。
年次有給休暇の発生時期
労基法は、次の2つの条件のいずれをも満たしたときに、年次有給休暇(以下、有休)が取得可能になると定めています(労基法第39条)。
①雇い入れから「6ヶ月以上継続勤務」していること。
②最初の6ヶ月間を経過した日(例えば、4月1日入職の場合は10月1日。以下、「基準日」という)、その後は毎年基準日ごとに、直前1年間(最初は6ヶ月)における「出勤率が8割以上」であること。
従って、少なくとも入職して6ヶ月経過しなければ、有休を取得することはできません。冒頭の2つの条件を満たして初めて、所定の日数の有休が取得可能になります。
有休の発生要件
前項の条件①における、「継続勤務」とは在籍期間のことです。アルバイトの更新や正職員への転換などの場合も、継続して勤務したものとみなされます(昭63.3.14基発150号)。
また、条件②の「出勤率が8割以上」は、以下の数式で算出されます。
計算式(原則)
*1出勤した日については、有休取得日を含む(昭22.9.13基発17号)。 |
*2所定労働日からは、クリニック都合による休業日(昭33.2.13基発90号)、休日労働日は除外。産休、育児介護休業、業務上災害による休業は分母分子ともに含まれる。 |
個別管理方式と一斉付与方式
使用者は、スタッフの有休を、採用した日ごとに個別管理しなくてはなりません。ただし人数が増えてくると個別に基準日が来るたびに出勤率を算定するのは管理が非常に煩わしくなります。
管理の煩雑さを避ける方法として、基準日を統一して一斉に付与する方法があります。(図1)。例えば有休の年度を毎年4月1日から翌年3月31日と定め、4月1日を基準に統一した場合、3月31日における勤続年数によって有休を全員に一斉付与します(年度管理方式)。
図1 一斉付与方式の場合の付与日
基準日を4月1日に統一した場合、4月1日から9月30日までに入職した人は、入職後最初の10月1日に10日を付与し、その後は毎年4月1日に有休を付与していきます。なお、本来2回目の有休は翌年10月1日でよいわけですが、基準日を4月1日とした場合、半年間前倒しで付与する必要があります(図1上段参照)。10月1日から3月31日までの入職者には、次の4月1日に付与します。
労基法で定める付与日数を下回ってはいけないことになっていますから、一斉付与方式では法廷を上回る日数の付与を認めざるを得ません。事務の煩雑さか、法廷を上回る日数か、どちらを取るかはクリニックの選択によることになります。
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就業規則記載の例(年次有給休暇)
(年次有給休暇)
第〇条 年次有給休暇は、4月1日を基準日とし、計算期間の1年単位は当年4月1日より翌年3月31日までとして、各職員の入社時期に応じ、以下の区分に従って与える。ただし、その限度日数は20日とする。
①4月1日以降9月30日までに入職した職員
入職後最初に到来する10月1日に勤続6か月とみなし、翌年4月1日に勤続1年6か月と見なし、以降勤続年数に応じて次のとおり付与する。
勤続年数 |
6か月 (最初の10/1) |
1年6か月 (翌年4/1) |
2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月 | 以降1年経過ごと |
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 | 20 |
②10月1日以降3月31日までに入職した職員
入職後最初に到来する4月1日に勤続6か月と見なし、以降勤続年数に応じて次のとおり付与する。
勤続年数 |
6か月 (最初の4/1) |
1年6か月 |
2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月 | 以降1年経過ごと |
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 | 20 |
2 前項の年次有給休暇を取得するためには、職員は初年度分については6か月間、次年度以降の分については基準日前の1年間の各出勤率が全労働日の8割以上に達していなければならない。なお、勤続年数みなしにより勤続年数要件が短縮された期間は出勤したものとして計算する。
3 第1項の年次有給休暇は翌年度に限り繰り越すことができる。ただし、入職後最初に到来する10月1日に付与された年次有給休暇については翌々年度の9月30日までに取得することができる。
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まとめ
1.有休は、雇い入れから6か月間以上継続勤務し、出勤率が8割を超えている場合に取得できる。
2.付与日を統一する方法もあるが、法定を上回る日数の付与となる。
3.事務の煩雑さか、法廷を上回る日数か、どちらを取るかの選択が必要。
書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より
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