院長のためのクリニック労務 Q&A
~採用・労働契約編6~
Q:面接後の辞退を防止するためにはどうしたらよいか?
A:採用までのスピード感と内定後のフォローが大切です。
面接から内定まで間を空けない
クリニックの応募者は、一般的な企業の就職活動ほど慎重に就職先を選んでいない人も多いのが実態です。もちろん明確な志望動機のあるスタッフもいますが、「このクリニックでどうしても働きたい」という人は少なく、「ここを断って、もし次のクリニックでも落とされたらどうしよう」という不安もあるため、最初に内定をもらえたところに就職を決める傾向があります。
従って、「良い人材だ」と思ったら、できるだけ早く結論を出すことが大切です。優秀な人材は、どこからでも内定がもらえます。内定まで1~2週間空いた場合、同時並行で面接を受けた他のクリニックの内定が出てそちらに決めてしまう可能性が高まります。良い人材と判断した場合は、できれば面接の翌日には内定の連絡を入れることが望ましいでしょう。ただし、判断に迷う場合や、面接候補者が複数いる場合には、判断を保留することもあります。その場合、長くても面接から1週間後までには結論を出した方がよいと思います。面接から2週間も経過してしまうと、本人も「歓迎されていない」と感じ、そのクリニックへ就職する意欲が薄れてしまいます。
こちらも見られていることを忘れずに
面接する側も応募者から、「見られている」ことを意識する必要があります。応募者は複数のクリニックの面接を受けている場合が多いことから、他院と比較され「ここには来たくない」と思われると、何かしらの理由を見つけて辞退されます。
こちらが採用する立場とはいえ、ふんぞり返って腕組みをしたり、「いつからできるの?」と上から目線で聞いたりするなど、横柄と受け取られるような態度や言動があると、面接を受けている方は、「ここに来ると大変そうだ」と感じます。
私たちも面接に頻繁に立ち会いますが、クリニック側の要望を伝えすぎてしまうケースがよく見られます。「うちに来たら、本来業務はもちろんだが、院長の秘書業務・掃除・診察の介助などを幅広く行ってほしい」というふうに一方的に要望を並べ立ててしまうと、応募者が、「自分には務まらないかも」と不安に感じでしまうのです。
要望は伝える必要がありますが、「忙しくても、スタッフが団結して助け合い頑張っています」というように、表現を工夫して不安を与えないよう配慮するとよいでしょう。
人は自分を求めてくれるところに行きたいもの
人は自分を必要としてくれるところへ行きたがるものです。内定の際にも、「あなたを採用します」と事務的に伝えるのではなく、「お人柄が当院に合うと思いました。全員一致で〇〇さんに入職していただきたいという結論が出ましたので、ぜひ当院に来てください」と伝える方が応募者の心に届きます。また、内定後も、「あなたを必要としています」というメッセージを伝えることが大切です。内定から勤務開始日までに時間が空くようでしたら、途中でオリエンテーションに来院してもらい、労働契約を締結するとともに、スタッフとの顔合わせの時間を設けておくことも効果的です。途中でユニフォームの準備について連絡を入れたり、歓迎会の日程の相談をしたりするなど、こまめに連絡をすることで、「入職を待っている」というこちらの熱意を間接的に伝えることも大切です。
勤務までに時間が空く場合は内定承諾書を
また、採用してから勤務開始までに期間が空く場合、その間に応募者の事情が変わって勤務ができなくなることがあります。例えば、今の勤務先に辞めることを伝えないまま就職活動を行っていて、いざ退職を申し出ると引き止められるようなケースです。クリニックではユニフォームやシューズの発注までしてしまっているにもかかわらず、安易に「辞められなくなりまして・・・・」と辞退の連絡を入れてくる場合もあります。このような事態を防ぐには、内定承諾書を郵送してサインしたものを返送してもらい、やむを得ない事情がない限りは勤務する確約を得ておくのも1つの方法です。内定承諾書だけでは法的効力はありませんが、採用辞退に対して一定のけん制効果は期待できます。可能であれば、早いタイミングでクリニックに来てもらい、労働契約書を締結しておくのが一番良い方法です。
まとめ
1.良い人材であれば、できるだけ早く内定通知を出し、面接から内定までの期間を短くする。
2.面接する側も応募者から「見られている」ことを意識し、ここに来たいと思ってもらえる雰囲気を作る。
3.「ぜひ来てほしい」というメッセージを伝えるとともに、早目に内定誓約書または労働契約書を取り交わす。
書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より
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