今回は、整形外科等で行われる注射の種類と算定について解説します。
通常の注射料は、皮下、筋肉内注射や静脈内注射または点滴注射が一般的ですが、痛みをとるための注射は、このような注射料の項目の実施料(手技料)ではなく、手術・麻酔料の項目になりますので間違えないようにしてください。
■痛みに対する注射の実施料
整形外科等では、首や肩、腰や膝などが痛いという患者様が多く、注射によって痛みを和らげる治療があります。この時、圧痛点(痛いところ)に直接注射をすることがありますが、使用された薬剤によって、注射の実施料(手技料)が変わってきます。使用した薬剤がキシロカインなどの局所麻酔剤または局所麻酔剤を主剤とする薬剤の場合は、(50)麻酔の項目の「トリガーポイント注射(1日につき1回 80点)」で算定します。局所麻酔剤が含まれていない場合は局所注射になりますので、算定は (31)皮下、筋肉内注射に準ずる、つまり(31)皮下、筋肉内注射(20点)で算定します。
■算定に気をつけて
よく見かける間違いとしては、キシロカインなどの局麻剤が含まれていないのに、トリガーポイント注射で算定されていたり、または局麻剤が含まれているのに(31)皮下、筋肉内注射で算定されていることもありますのでお気をつけください。
■1日1回 同時算定不可
トリガーポイント注射は1日に1回のみの算定になります。同時に複数の部位に行った場合でも、実施料の80点は1回しか算定できません。また、神経ブロック注射と同日に行われたトリガーポイント注射の実施料はブロック注射に含まれるので算定できません。ただし、どちらの場合も使用した薬剤料はすべて算定できますので、漏れ無く算定してください。
■トリガーポイント注射の薬剤
上記でトリガーポイント注射を算定する場合は、局所麻酔剤が含まれていることと説明させていただきましたが、例外もあります。
・ネオビタカイン注
・ビーセルファ注
この2剤は解熱鎮痛鎮静剤で局麻剤ではありませんが、局所麻酔作用、解熱・鎮痛作用を有する成分の配合剤で、少量のジブカインが含まれていますので、トリガーポイント注射でも認められる薬剤です。また消炎鎮痛剤でよく使われるノイロトロピン注射液は、単剤ではトリガーポイント注射として認められませんのでご留意ください。
■神経ブロック
この他にも、痛みが伝わらないように遮断するという意味の神経ブロック注射があります。点数表を見るとL100神経ブロック(局所麻酔剤又はボツリヌス毒素使用)と、L101神経ブロック(神経破壊剤又は高周波凝固法使用)に分かれていますが、両方に同じ名称の項目があり点数は異なっています。これは使用した薬剤によって点数が変わりますので注意が必要です。また、神経ブロック注射のときに超音波エコーを用いて行っても、超音波エコーの点数は算定できません(ブロック注射料に含まれる)のでご留意ください。
■関節腔内注射
痛いと言われる関節内に注射をされた場合には(33)その他の注射の「関節腔内注射」になります。
体には複数の関節がありますが、左右も別々に関節1か所ごとに1日につき80点 算定できます。
ここでの注意点は、
・(33)(注射の項目の)関節腔内注射 80点
・(40)(処置の項目の)関節穿刺 120点
・(60)(検査の項目の)関節穿刺 100点
この3項目は、同一日に同じ関節に行った場合、どれか1項目しか算定できないルールになっています。これは実際のやり方を知っていると理解しやすいと思いますので簡単に説明します。
関節内に1回針を刺して、関節内に溜まっている水を抜きます。(これが処置の関節穿刺です)
針はそのままで注射器だけを取り外し、注射薬剤が入っている注射器に替えてその針に取り付け注射をします。(これが注射の関節腔内注射です)
そして抜いた水を検査に出します。(これが検査の関節穿刺です)
この時、針を刺したのは最初の1回だけですね。このように同じ関節の場合は針を1回刺すだけで3項目すべてができてしまいますので、針を刺す技術料に当たる点数は、どれか1項目しか算定できないということです。
(どれで算定された場合でも、使用した注射薬剤料は算定できますので、忘れずに算定してください)
■損をしないポイント
1つの関節に処置の関節穿刺と、注射の関節腔内注射を行った場合、技術料は処置の関節穿刺で算定した方が点数は高いですね。ですが、処置料を算定した場合には再診料の加算項目のひとつである外来管理加算(52点)は算定できません。これが初診時であれば、そもそも外来管理加算の算定はできませんし、他に消炎鎮痛等処置やリハビリなどを行っていたら外来管理加算は算定不可となりますので、実際の点数だけを比べるのではなく、このようなことも含めて点数が高くなる方を選ばれるとよいと思います。(薬剤料のみを注射の項目で算定しても構いませんし、処置料のところで、処置の薬剤料として算定しても問題ありません)
■ヒアルロン酸の傷病名
もうひとつ、関節腔内注射でよく使われる薬剤のアルツやスベニールなどヒアルロン酸は、保険で認められる傷病名が限られています。対象疾患は、次の3つのみです。
・肩関節周囲炎
・変形性膝関節症
・関節リウマチにおける膝関節痛
これ以外は対象外になりますので、お気をつけください。
■レセプトでの注意点
レセプト点検を行っていると違和感のあるレセプトを目にします。先生方にしたら普通のことで特に気にされてはいないと思いますが、これが気づかないうちにクリニックの印象を悪くしていることに繋がっている可能性もありますので、気をつけた方がいいポイントを2つお伝えしておきますね。
■注意点 その1
例えば、11月の1日に膝のレントゲン撮影を行い半月板損傷の病名が付いたとします。そして10日にアルツを注射したので変形性膝関節症を11月10日で付けました。医療機関内ではよくあることだと思いますが、これは明らかに保険のための病名になっていますので、審査側への印象は悪くなります。変形が有るか無いかはレントゲンの結果を見て判断可能と思われますので、この場合は変形性膝関節症の病名も11月1日付けで付けられた方がいいと思います。
■注意点 その2
もう1つ、変形性膝関節症や肩関節周囲炎は基本的には35歳以上の方が対象です。ですから、「注射をしたので」と、ただ病名を付けておけばよいというわけでもありません。例えば若い患者さんで、膝への負担が大きいスポーツによるけがなど原因が明確なものであれば、「二次性変形性膝関節症」とお付けください。
このように、痛みに対する注射の場合は実施料もさまざまですし、使用した薬剤によっても算定する点数が変わってきますので、医師の指示を確認して、正しく算定するようにしてください。また、患者様が領収証や明細書を見て、「手術なんてしていないのに」と疑問に思い、窓口で聞かれることもありますので、受付や会計を担当されるスタッフさんも、注射によっては項目が手術料で算定されていることを理解し、患者様にわかりやすく説明できるよう準備しておかれるとよいと思います。