過去の病気のことが気になるが、面接で聞いてよいか?

石川 恵
石川 恵 社会保険労務士

院長のためのクリニック労務 Q&A

 

 

~採用・労働契約編3~

 

Q:過去の病気のことが気になるが、面接で聞いてよいか?

A:聞くことは可能です。ただし、聞き方を工夫し、仕事に関係ないことにまで質問が及ばないように

  配慮する必要があります。

 

 

採用差別の観点から、聞き方には配慮を

 

職業安定法第5条の4では、求職者などの個人情報は、「業務の目的の達成に必要な範囲内で」収集しなければならないと定められています。そのため、本人の適性や能力に関係のない質問をするのは避けなければなりません。

 ただし、上記条文には続きがあり、「本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合はこの限りでない」と記載されています。そのため、応募者本人から発言があり、情報を収集することについては構いません。例えば、本人から、「前職は体調不良により退職しました」という発言があった場合は、仕事に影響する可能性のある範囲内であれば、具体的な病状や現在の通院状況などを確認することは問題ないでしょう。

 なお、原則として次の個人情報は収集してはいけないとされているため、注意が必要です

(平11.11.17労働省告示第141号より)。

 ①人種、民族、社会的身分、門地(いわゆる「家柄」のこと)、本籍、出生地その他社会的差別の原因

  となるおそれのある事項

  ・家族の職業、収入、本人の資産などの情報

  ・容姿、スリーサイズ等、差別的評価につながる情報

 ②思想および信条

  ・人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書

 ③労働組合への加入状況

  ・労働運動、学生運動、消費者運動 その他の社会運動に関する情報

 

違反行為があった場合は、職業安定法に基づく改善命令が出される可能性があり、さらに改善命令に違反した場合は、罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科される場合があるとされています。実際にクリニックに罰則が適用された例は、今まで聞いたことがありませんが、応募者がハローワークに通報する可能性がゼロとはいえませんので、多少は頭に入れておいた方がよいでしょう。

 資料2は、厚生労働省が「採用選考時に配慮すべき」として挙げている事項です。

 

 

【資料2 採用選考時に配慮すべき事項】

 

次のaやbのような適性と能力に関係がない事項を応募用紙等に記載させたり面接で尋ねて把握することや、cを実施することは、就職差別につながるおそれがあります。

a.本人に責任のない事項の把握

 ・本籍・出生地に関すること(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出

  させることはこれに該当します)

 ・家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・

  勤務先などや家族構成はこれに該当します)

 ・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)

 ・生活環境・家庭環境などに関すること

b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握

 ・宗教に関すること

 ・支持政党に関すること

 ・人生観、生活信条に関すること

 ・尊敬する人物に関すること

 ・思想に関すること

 ・労働組合に関する情報(加人状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること

 ・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

c.採用選考の方法

 ・身元調査などの実施(注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性が

  あります)

 ・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

 

出典 厚生労働省「公正な採用選考の基本」

   https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm

 

確認方法に工夫を!

 

仕事に関係するものの、資料2にも触れられており直接聞きづらい質問もあるでしょう。そのような場合は、事前記人用紙を作成して情報を収集する方法があります。家族に関する質問は資料2の配慮すべき事項の中に含まれますが、特にクリニックでは小さなお子さんがいて遅くまで働けないという人も多く、実務上確認が欠かせない項目だと考えられます。また、お子さんが小さいうちは、保育園の送り迎えの時間や家族のサポート態勢が当然勤務にも影響してきます。

 ただし、記人を強制しないような配慮はあった方がよいでしょう。事前記入用紙にも、「以下の項目に関して、差し支えのない範囲でお答えください」と、ただし書きを入れ、書かない(回答しない)という選択肢を設けておくことがポイントです。ただ実際には、ほとんどの応募者が全項目について記入しています。

 

 

面接の場は院長も評価される場

 

応募者は、複数のクリニックの面接を同時に受けていることがあります。そのため、院長の面接の仕方によっては、「この前面接を受けた院長の方がよい」と比較判断され、こちらが採用したいと考えても応募者から辞退される可能性もあります。

 面接の場は応募者からも「評価される」場であることを忘れないでください。同時に、応募者も地域に住んでいて患者さんになる可能性があります。面接の場で失礼な質問や横柄な態度があると、入職を断られるだけでなく、そのことを隣近所にいいふらされ、インターネットの掲示板などに書き込まれるなど、いわゆる風評被害のリスクも十分考えられます。

 

まとめ

1.採用差別の観点から、直接仕事に関係しない質問は、聞き方に配慮する。

2.聞きにくいことは書面で確認するのも1つの方法。

3.面接は院長も「選ばれる場」という認識を!

 

 

 

書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より

 

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