光畑先生の年次は秋田大学医学部の第1期生ということですが、数ある診療科から麻酔科に進まれた理由は何でしょうか。
診療科の選択そのものに、あまり深い意味はありません。ただ、麻酔学講座の初代教授だった碩学の士、故渡部美種先生には人として心から敬慕の念を抱きました。それと学生時代から手術場の仕事が面白そうだと感じていたことかな。患者さんの全身管理を担う麻酔科医は、1日中手術場にいられますから。
卒業後はそのまま秋田大学医学部麻酔学講座で研鑽され、その後、米国のメイヨークリニック、次いでベイラー医科大学という名門で学ばれたということですね。
米国留学は免疫学生化学教室での基礎科学トレーニングでした。私が専門としていたのは、当時数少ない全身麻酔中に突然に発症するアナフィラキシーショックだったのですが、アナフィラキシーは免疫反応に基づいた生体への障害ですから本格的に免疫学の勉強をしたいと考えてのことです。加えて、大学病院のICU業務では、予後決定要因として死亡リスクの高い敗血症に興味がありました。敗血症では免疫抑制が長期予後の重要な要素だと考えられていますから、ここでも免疫学の理解が必須だったわけです。医学部ではいわゆる“Science”の基礎を習うわけではないので、私にとっての米国留学は、理学部に入り直したという感じでしょうか。
秋田大学から自治医大、そして順天堂と先進医療の先端を歩まれ、最後に教授を退官されての今回の開業。その選択のお考えをお聞かせください。
まず「光畑先生がいなくなったら困る!」という患者さんの声でしょう。必要とされるのであれば何とかしてあげなければというのが第一。
もう一つは社会への恩返し、といったらやや大げさでしょうか。私は小学校から大学までずっと国公立の学校で学びました。私の時代の国立大学は、入学金が5千円位だったかな。それと授業料は確か年間1万2千円。つまり公費に支えられて8万円足らずの負担で医師にさせてもらったわけです。それから40年間も臨床と研究をやりたいようにやらせていただきました。定年退官を機に、あと20年、培ってきた技術を開業医として社会に還元させていただこうと。まぁ、それまで生きていけたらの話だけどね(笑)。享受した社会資本を再び社会に還して土塊に戻る、それで私なりに医師人生のバランスがとれるんじゃないかなと(笑)。
クリニックではどのような医療提供に取り組んで行かれるのか、コンセプトをお聞かせください。
コンセプトも何も、痛みに苦しむ人を治してあげられればいいだけのことです。近代医学は疾患を臓器別に分類してEBMを確立してきました。でもエビデンスだけでは解決できない症状があることも事実です。頭痛を訴える患者さんが脳外科や神経内科で検査を受け、その結果「異状なし」と診断されたらどうなるでしょう。二次性頭痛を否定され、適切な治療が行われないまま患者さんには苦痛だけが続くことになります。それを診るのが神経ブロックという武器を操ることのできるペインクリニックです。実際、整形外科で改善しなかった腰痛や婦人科で所見なしとされた生理痛、がん性疼痛も治療してきました。また、高齢者の慢性痛ではADLの低下がしばしば見られますが、痛みの完全な消失は難しくても、痛みを緩和することで健康的な日常生活動作を取り戻すことができます。また、痛みの強さや性質、患者さんの生活背景、精神面等の評価からある程度患者さんの全身状態を知ることができます。言わば総合内科の「痛みバージョン」のようなものですね。
開業は医師人生の総仕上げという感じでしょうか。
私は、医者になりたくて医学部に入りました。卒業後は3カ所の大学病院で研究と臨床を存分にやってきたし、関連の中核病院では部長として手術場を運営し、教授になってからは多くの学生・医局員を指導してきました。そして今回の開業ですから、医師として経験できることはすべてやってきました。そのうえでこれからは、「町内の少し身体のことに詳しいオヤジ」でいられれば良しと思っています。町医者として地域と患者さんにフレンドリーでありたい、だから権威の象徴のように見られる白衣は着用していません。受診のハードルを下げ、どんな相談にも丁寧に対応していきますし、高齢者などに多い複数の疾患を合併しているケースでは適切な医療機関に紹介を出しています。
最後になりますが、今回の日本医業総研の開業サポートはいかがでしたか。
概ね満足しています、まぁ、安くはないけどね(笑)。コンサルの選定を誤ってトラブルを招いた先生の話も耳にしますから、開業を検討している後輩医師にも医業総研を紹介させていただきました。開業物件の選定や煩わしい届出関係などでは担当の三木崇史さんには本当に良くやってもらいました。ただ、結果論として受付事務の職員数は立ち上がり時期はもっと少なくてよかったかな。そのあたりは、診療科ごとに異なる感覚があるのではないかと思いますが、もう少し慎重な詰めが必要だったように思われます。それでも、医業総研のサポートを受け採用した職員には恵まれました。受付では待合患者さんとの円滑なコミュニケーションが図られているようです。実際、患者さんからも評判も良く、私は診察に専念することができています。
みつはたペインクリニック
院長 光畑裕正
院長プロフィール
1976年3月 秋田大学医学部医学科卒業
1976年4月 秋田大学医学部麻酔学講座助手
1983年5月 米国メイヨークリニック免疫学教室 Research Fellow
1983年11月 米国ベイラー医科大学生化学免疫学教室 Research Associate
1985年2月 秋田大学医学部付属病院集中治療部講師
1989年4月 秋田県厚生連平鹿総合病院麻酔科・ペインクリニック科長
1991年4月 自治医科大学医学部麻酔科学講座 講師
1997年4月 順天堂大学医学部麻酔科学 講師
2000年7月 順天堂大学医学部ペインクリニック研究室 講師
2002年3月 順天堂大学医学部 助教授(ペインクリニック研究室、大学院医学研究科外科系疼痛制御学担当)
2002年5月 東京都江東高齢者医療センター ペインクリニック・麻酔科科長
2007年3月 順天堂大学大学院医学研究科 外科系疼痛制御学 教授
順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 教授
順天堂大学医学部付属順天堂東京江東高齢者医療センター 麻酔科・ペインクリニック科長
2017年5月 みつはたペインクリニック開設 院長