試用期間の活用法
長期的な育成の観点からも試用期間を意味あるものにすべき。求めるレベルを明確にイメージせよ
徹底してコミュニケーション図れ
ほとんどの診療所では、スタッフの採用後に「試用期間」を設けていることだろう。
しかし、この試用期間を「意味のある」期間にしているところは果たしてどのくらいあるのだろうか。
一般的に、試用期間は3カ月(または6カ月)と定める例が多い。
試用期間は、「スタッフがその診療所で働くための適性を判断するための期間」なのだが、
現状は、「ただなんとなく日常の業務をしていたら3カ月が経過していた」と、
お互いに目的意識の薄い期間になってしまうケースが少なくない。
そのため、試用期間後の本採用から1年を過ぎた頃に「いまだに患者さんに対して検査の説明もできない」
「なぜ今頃になって挨拶について注意しなければならないのか」といった疑問を院長が抱くようになるのである。
よほど能力や順応性が高くなければ、採用後すぐに院長が求めるレベルの業務遂行はできないだろう。
しかし、その一方で教育をせずに「いつかはできる」と信じるだけでもだめだ。
開業後、理想的な診療所運営をするためにも、長期的なスタッフの育成が不可欠であり、
そのためにも最初の「仕掛け」が必要なのだ。
院長が試用期間に行うポイントは、
①試用期間にどこまでの業務ができるようになっていてほしいのか、明確なイメージをもつ
②何度も面談する
③具体的にいつまでにどんな業務ができるようになってもらいたいのかをスタッフに伝える
――の3つである。
採用間もないからといって、お互いに気を使いあっていては何も伝わらないし、わかりあえない。
だからこそコミュニケーションが必要となる。
業務目標の達成にスタッフ自身の努力も必要だが、院長から達成期限を具体的に伝えなければ、
目標を設定して達成しようというスタッフの発想にもつながらない。
期間中でも問答無用で解雇できない
もう一つ注意すべきは、試用期間中でも問答無用に解雇はできないということ。
労働契約法第16条で定める「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする」という条文が適用される。
つまり、「好き嫌い」ではなく、「再三再四指導したにも関わらず、スタッフの態度は改まらなかったのか」ということが問われる。
開業間もない頃は、とにかく診療所を正常に運営することに注力し、指導まで頭が回らず気づいたら試用期間が過ぎてしまっていた
とうケースが多い。
しかし、試用期間の取り組み方が、スタッフの成長の鍵と捉え、スタッフとコミュニケーションを取りながら指導して、
「意味のある」期間にしていただきたい。
次回は、スタッフの育成方法について。
事例を交じえながら指導のポイントを解説する。
高橋友恵 たかはし・ともえ
社会保険労務士。株式会社日本医業総研人財コンサルティング部マネージャー。
診療所での人財育成に関するコンサルティングを担当。
診療所特有の労務管理業務に携わり、200件以上の関与実績を誇る