2011年8月15日

診療所・クリニック 開業ガイド 2010 〜変革の時代の医院開業〜 

景気低迷だからこそ、
賃料、人材の面でメリットも。
必要なのは、「明確な事業コンセプト」

日本経済全体が厳しい不況の波にさらされている今、開業を取り巻く環境は悪化しているのだろうか。
過去約270件のクリニック開業を成功に導いた(株)日本医業総研 東京本社のシニアマネージャー・植村智之氏は、
「診療所・クリニック開業が簡単なことではないのは、今までと同じだが、以前に比べれば、
プラスの要素がいくつもある」と語る。不動産相場の下落、就職難の時代だからこそ見えてくる光とは?
開業を成功させるポイントとともに聞いた。

固定費を抑えて
ソフト面を強化できる好機

深刻なデフレ不況、暗い話題が新聞紙面を覆う中で、クリニック開業を考えながらも踏み切れずにいる勤務医が多いようだ。
しかし、実際には開業を取り巻く環境は大きく変わってはおらず、開業の相談にくる医師も減っていないと植村氏は言う。
「民主党政権となりましたが、大きな不安材料はないと思います。医療行政に守られているため、クリニックの診療単価が
急激に下がることもありませんし、患者数が激減しているわけでもありません。その一方で、不動産不況の影響で、テナント賃料が
景気の良い時期に比べると下がってきています。さまざまな企業が事業規模の縮小を検討し、事務所や店舗を撤退させているため、
空き物件が以前より増えているのも事実です」つまり、不景気のおかげで、以前に比べて、固定費のひとつが抑えられる可能性が
出てくるわけだ。良い物件が見つかる可能性も高くなる。さらに、この不景気は、人材面においてもメリットが見込めると言う。
「就職難の時代といわれますが、勢いのある企業は、こういう時期だからこそ採用活動に力を入れています。それは、不景気こそ
優秀な人材を確保できるチャンスだからです。クリニックにとっても同じく、この時期は、受付や一般事務などに良質な人材が
獲得できる可能性が高いといえるでしょう」医師よりも患者さんに接する時間の長いスタッフは、きめ細やかで適切な対応、
心のこもった接遇など、その質がクリニック全体の印象を決定づける。良質なスタッフを揃えられることは、開業成功のための
重要な要素。そう考えれば、不景気は、人材確保の点においても開業の好機といえそうだ。

事業計画の核となる
コンセプトこそ成功の鍵

とはいえ、簡単に開業できるわけではない。これまでと同様、誰でも成功できる時代ではないのは紛れもない事実だ。それでは、
開業を成功させるための条件とは、何だろうか?「事業コンセプトを明確にすることが第一条件」と植村氏は強調する。
「開業する際、つい物件ばかりを問題にしがちですが、その物件がクリニックのコンセプトに合っていなければ、
どんなにすばらしい場所であっても成功できません。人口が多いエリアでも、競合が多くては結果的に多くの患者は見込めないからです。
特に内科クリニックは数が多いので、開業の際には必ず競合の中に入っていかなければなりません。他のクリニックと同じことを
やっていたのでは、とうてい勝ち残っていけないでしょう。それまで他のクリニックに行っていた患者さんに足を運んでもらうためには、
地域住民のニーズを汲み取り、競合よりも患者満足度を上げていくための差別化戦略しかないのです」
実際に、開業前にしっかりとした事業コンセプトを打ち出して、差別化戦略を立てた結果、開業1年以内に黒字に転化した内科クリニックが
いくつもあるという。
「開業前にコンセプトをしっかり決めておけば、立地、設計デザイン、スタッフ教育、院内掲示、パンフレット、ホームページ等の告知など、
全てにわたって統一したビジョンのもとで進められ、クリニックのイメージを地域住民に印象付けられます。
満足していないけれども、しかたなく既存のクリニックに通っている患者はいます。そうした患者が多いエリアでは、地域のニーズを
満たしたコンセプトを打ち出し、実践していけば、必ず成功できるはずです」
クリニックの評判は口コミで広がっていく開業して初めてわかることもある。開業してから試行錯誤し、診療方針まで変えてしまうケースも
決して少なくない。
「しかし、それは失敗の原因となり得ます。開業後の半年間ほどは、いわば地域住民の皆さんへのお披露目の時期。この時期の印象や評価は、
そのまま定着してしまいやすいので、特に大事にしなければなりません」と植村氏。
新しいクリニックの情報は、次第に口コミで広がっていくものだ。そうした情報の流れも意識して、準備を進めたクリニックは、
開業後も順調に立ち上がっていくという。
「開業当初は、患者さんを待たせてしまうことがよくあります。問題は、その後のスタッフの対応です。待合室全体に気を配り、
『お待たせして申し訳ありません』などと声がかけられるかどうかです。『待ち時間を短くするためにこんな努力をしています』と院内に掲示をしたり、
アナウンスするのもよいでしょう。こうした対応について、開業前にスタッフ教育で徹底しているクリニックは成功しています」
また、そのクリニックのコンセプトや理念、院長の思いを、ホームページを通して外に向けて発信し、きちんと伝えていくことが大切だという。
パソコンが得意な院長の中には、ホームページは自分で作りたいという人がいるが、忙しい院長が開業までに行わなければならない作業は山ほどあるため、
結果的に不十分なものしか準備できないケースが多い。ホームページについてはWEB戦略やメンテナンスを含めて一括でプロの業者に依頼したほうが効果が高い。
エリアを絞り込み、最適な物件をいち早く見つける明確な理念やコンセプトが決まれば、マーケティングや物件選びはよりスムーズに進む。
コンセプトに合ったエリアを絞り込むことで、そのエリア内で、効率よく好条件の物件を探していくことができるようになるからだ。そして、
景気が低迷している今だからこそ、第一候補のエリアにも、希望通りの物件が見つかる可能性は高くなっているのだ。
「物件を探す際、広く情報を集めようとしても、誰でも知っているような浅い情報しか集まりません。良い物件をいち早く見つけるためには、
コンセプトに合わせてエリアをしっかりと絞り込むことが大切です」と植村氏。
テナント物件は、通常、前の借主が退出する3カ月ほど前に退出届が提出される。そんな非公開の物件情報をいち早く入手したいなら、エリアを絞り込み、
不動産業者に情報提供を依頼しておかなければならないからだ。先ほども述べたが、この景気低迷の中で、賃料相場は下がってきており、
一等地などでも物件が出てくる可能性が増えている。しかし、一等地ならばどこでもいいというわけではない。
例えば、駅に近く、人通りが多くても、競合が乱立していては多くの患者は見込めない。また、たとえ競合が少なくても、
地域に密着した大きな病院があるようなエリアでも難しいだろう。大切なのは、コンセプトに合ったエリアを絞り込むことだ。

医療モールは玉石混交
ビジョンを見極める

ここ数年、急速に増えている医療モール。診診連携が取りやすく、シナジー効果が期待できるため、開業を目指す勤務医の間でも関心は高い。
しかし、不動産不況の中で、有効な土地利用の選択肢が少なくなっている今、安易に医療モールを建設するケースも出てきている。
玉石混交の医療モールについて、植村氏はこう語る。
「医療モールは、そこで開業するクリニックにとって、さまざまなメリットが期待できます。しかし、そのメリットをクリニックが享受できるかどうかは、
医療モールを運営する側のきちんとしたビジョンがあるかどうかにかかっていると言えます」
最近では、予防医学に関心が集まる中、フィットネスクラブを併設している医療モールなども現われている。
このように時代のニーズに合わせて、明確なビジョンを持った医療モールが注目されそうだ。物件選びの際には、そのビジョンが
クリニックのコンセプトと合っているかどうかを、しっかり見極めなければならない。
スタッフ採用は、人柄とバランス重視で人材も物件と同じだ。就職難の今、良質な人材が集まる可能性が高まっているが、
華やかな経歴や学歴を持つ優秀な人材であっても、そのクリニックのコンセプトと合うかどうかをしっかりと見極めなければならないのは言うまでもない。
「クリニックの仕事は、けっして派手な仕事ではありません。その一方で、患者さんへの気配りやチームワークが求められる仕事です。
他のスタッフとのバランスを考えて、採用することも必要です。面接の際には、性格をよく見極め、協調性があり、院長の考えに共感し、
院長の話に素直に従ってくれるような人材を選ぶのが良いのではないかと思います」

モチベーションを高める
開業後のスタッフ教育

成功しているクリニックの中には、スタッフ教育に力を入れているところが、実に多いという。特に、開業当初のモチベーションを維持し、
クリニック全体のクオリティを高めていくためには、開業後のスタッフ教育が必要だ。神奈川県内の、とある内科クリニックでは、毎月1回、
グループミーティングを実施し、患者満足度を上げるにはどうしたらよいか、クリニックのコンセプトを実現するためには何が必要かについて、
活発にディスカッションを行う。そうして問題点を洗い出し、改善策をマニュアルに落とし込むという。そのクリニックは、わずか3カ月で黒字に転じ、
その後の業績も好調に推移している。
経営戦略を立案し、資金計画で数値化それでは、開業を成功させるためには、経営戦略の中核となる事業コンセプトをどのように考えたらよいのだろうか。
「まずは、目指すクリニックを具体的にイメージして、事業コンセプトマップを作ってみるとよいでしょう。先生ご自身の強み、弱みは何か。
その強みを活かした診療コンセプトは何か。そのコンセプトに合ったエリアとはどこか。医療連携先はどこか。競合との差別化のために必要なことは何かを
一つひとつ文章にして落とし込んでいく作業が必要だと思います」
次に、そのコンセプトマップを数値におきかえ、資金計画を作成する。クリニック運営に必要なランニングコストとは何か。医療原価や人件費についても自分で計算してみるとよい。
「開業コンサルタントなどに任せきりにしないで、できるだけ医師自身が経営の基礎知識を身につけ、計算してみることをお勧めします。その上で
広損益分岐点がどのくらいになるのか、開業に必要な初期投資額や資金調達方法など、一つひとつ課題をクリアにしていけば、開業に対する
漠然とした不安から抜け出せ、解決すべき課題も見えてくるはずです」

人事労務の基礎知識を持ち、
スタッフ像を明確にする

患者満足度を高め、地域に支持されるクリニックになるためには、スタッフの採用や教育が非常に重要だ。自分の理想とするクリニックに必要な
人材を具体的にイメージして、スタッフを確保するための採用のポイント、開業前研修で行うこと、開業後の関わり方なども、経営コンサルタントに
相談しながら、決めていくのがよい。
また、開業後に労務問題を起こさないためにも、人事労務の基礎知識も身につけておきたい。
「開業後にクリニックの経営がうまくいっているかどうか、自己分析できるように経営管理についても基礎知識を身につけておくと良いでしょう」

院長自身が
「経営のセミプロ」になろう

開業に不安を抱えている勤務医の中には、経営についてあまり良くわかっていない人が多いのではないだろうか。
不安を払拭するためには、開業する前に、「経営のセミプロ」になっていてほしいと植村氏は言う。最近では、セミナーだけではなく、
勤務医を対象にした院長になるためのワークショップ形式の勉強会などもあるので、参加してみるのも一案だろう。
「ドクターの人材登録会社に加入して、雇われ院長を一度経験してみるのも良いと思います」と植村氏。勤務医時代とは全く違う視点に立つことで、
病院とクリニックの違いを把握し、経営者としての手腕が身につくという。まずは、開業に向けて第一歩を踏み出すことから始めてみてはいかがだろうか。

 

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