◆整形外科 編
整形外科では、高齢者を中心とした足腰の不調等でADLの低下を伴う方への配慮が不可欠で、完全バリアフリー、複数台分の駐車場の確保、テナント開業の場合も1Fが優先されます。事業計画では、運動器リハビリ機能をどの規模とするか、また検査における画像診断機能をどこまで整備するか、併せて機能別の採算性が問われることになります。
≪ポイント≫
・リハビリを物療中心に割り切り、消炎・鎮痛にとどまらない、慢性疾患に対するかかりつけ医機能とすることも選択肢に
・運動器リハを武器とする場合は、専門職であるPT、STなどに優秀な人材を確保したい。
ただし、固定経費も高くなるので、事業計画・資金計画に注意が必要
・多職種での連携が重要なだけに、チーム力向上と人事労務管理等のマネジメントが重要
②事業計画
整形外科の事業計画では、リハビリテーションにどれだけ力点を置くか、またMRIなどの高額医療機器導入の有無によって大きく内容が異なります。
診療コンセプトや対象とする患者層を明らかにし、まずは、先生ご自身が理想とするスタイルで開業した場合の事業計画を作成してみて、その結果が厳しいと判断される場合は、投資額やランニングコストを抑えたスタイルでの事業計画を作成し、比較検討する方法が良いでしょう。
リハビリを行う場合の収入計画においては、施設基準を「運動器リハビリテーション(1)」「同(2)」「同(3)」のどの基準にするかで診療単価が変わってきます。併せて、人員配置がそれぞれ異なることから人件費計画も変わってきますので、まずは、方針を明確にすることが重要です。
ただし、運動器リハビリテーション(1)は、施設基準の要件として、PTもしくはOTが常勤で4名必要となりますので、現実的には新規開業当初からそれだけの人数の専門職を確保することは難しいですし、固定費となる人件費も高額になりますので、同(2)あるいは同(3)からのスタートを想定したほうが無難だと思われます。
また、MRIを導入する場合は、通常の外来収入に加えて、1日当たりの撮影件数にMRIの撮影単価を掛け合わせたMRI単独の収入計画を立てることになります。医療機器メーカーからは、月間何件撮影すれば医療機器の投資額を回収できるといった試算表を提示されることがありますが、何件撮影できるかは、外来患者数に比例してきますので、診療圏調査結果に基づく外来想定患者数をもとに撮影件数を推測することが重要となってきます。具体的な比例相関係数は、都道府県で公表している医療情報ポータルサイト(医療情報ネット「ナビイ」等)に、診療所ごとの1日患者数、MRI撮影件数が公表されているケースがありますので参考にするとよいと思われます。
事業計画のサンプル(MRIを導入する場合)では、1日当たりの外来患者数の約3%をMRI撮影対象として月間のMRI撮影件数を試算しシミュレーションを行っています。これによると、損益分岐点における外来診療収入は6,394,500円、MRI撮影収入は793,440円、合計収入7,187,940円となっています。
このように、診療圏調査の結果、想定される1日あたりの来院患者数から、期待できるMRI撮影収入を導き出せますので、単純に月何件撮影すれば医療機器の投資を回収できるといったメーカー主導のシミュレーションではなく、開業する場所での医療ニーズに沿った現実味のある投資回収効果を判定していただきたいと思います。
事業コンセプトの違い(リハビリ、MRI)は、家賃や内装工事費にも影響を及ぼします。リハビリテーションに力を入れる場合やMRIを導入する場合は、必要となる床面積が広くなり、家賃、内装工事にも大きく影響しますので、どのようなコンセプトの診療所にするかを決めかねている場合は、それぞれのパターンで事業計画を作成し、収支の違いを理解した上で、経営方針を決めることも大切です。
人員配置は、受付は常時2名、看護師は常時1名の体制で事業計画上の人件費計画としては問題ありませんが、リハビリ部門については、施設基準によって必要人員が定められています。また、物理療法の補助としてのリハビリ助手を何名配置するかについても事前の検討が必要です。
放射線技師についてもMRIを導入する場合は、常勤採用が必須と考えられますが、レントゲンのみの場合は、予測される外来患者数によっては、非常勤での採用で対応することが可能ですので、効率的な雇用形態の検討が必要です。
その他の経費内容については、整形外科の場合は内装工事費や医療機器投資額が高額になるケースが多く、それに見合った保守料や損害保険料、償却資産税などを予算に計上しておかなければなりません。また、MRIを導入する場合は、水道光熱費の設定や高額な保守料が発生(通常は開業後2年目から)しますので、実際にかかる見込みの数字を適正額計上しておくことが重要となります。
資金計画(開業時の貸借対照表を参照)に関して、整形外科の開業における医療機器については、レントゲンは天井走行式か壁走行式か(建物の状況にも影響されます)、画像処理はCRかDRか、エコーの導入の有無、リハビリ機器、物理療法機器をどれだけ導入するかなどによって違いが出てきますので、異なるパターンの事例などを参考に決めていくとよいと思われます。
MRIを導入する場合は、医療機器そのものが非常に高額になるだけではなく、設置場所確保に伴う床面積の増加により、内装工事費は増大します。また、専用業者による防護工事も必要になる他に、特に既存建物に導入する場合は、搬入経路の確保や(定期的な医療機器の入れ替えが必要なため)、建物躯体の補強工事を伴うケースも考えられます。開業場所の条件によっても内装工事費が大きく変動しますので、できるだけ正確な見積もりを取り寄せて事業計画に反映させないと、資金調達計画の練り直しが必要になりますので注意が必要です。
また、確保すべき運転資金については、既存整形外科の医療供給が地域ニーズを満たしていない場合は、比較的早期に事業が立ち上がるケースもありますが、他の診療科目と比べ、事業の固定経費が高くなる傾向があるため、収入予測が甘いと一気に資金繰りが厳しくなりますので、最低でも開業後1年間分の月次の収支計画を立てて、損益分岐点を超えるまで事業資金が枯渇しないように、慎重に開業準備を進めていただくことが重要です。
~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~
★次回は 整形外科の配置・採用計画 を掲載予定です
<過去のブログ>
消化器内科 ①経営戦略・立地選定 2023/6月更新分
消化器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/8月更新分
循環器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/11月更新分
呼吸器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/2月更新分
糖尿病内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/5月更新分
小児科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/8月更新分
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