地域医療ニーズに丁寧に対応しつつ、広域から集まる患者さんに専門性の高い医療を提供

森本大二郎 先生

上石神井もりもと脳神経外科
院長

外科医としてのメスを置き、手術前後の高レベルな診療を目指す

大学卒業後の進路は、迷うことなく脳神経外科を選ばれたのですか。

大学時代は部活のラグビーに打ち込んでいて、体育会系ということもあり進路は外科系で、一般外科、整形外科、脳神経外科、心臓血管外科といったあたりかなと漠然と考えていました。私の時代は現在の主要各科をローテートする研修制度がなかったので、国家試験合格後すぐに進路を決めなくてはならず、学生時代から面倒をみてくれていた部活の先輩のお誘いをいただいたので、脳神経外科に決めました。

脳神経外科の扱う疾患領域は広いですし、病院では救急対応、手術、保存療法、さらにリハビリや経過観察にも責任が及びますから、医師には知見の広さ、深さ、手術での精微な手技も要求されます。外科に加え、内科的な知識やセンスも問われることになるわけですが、大学病院時代をどのように歩まれてきたのですか。

脳神経外科への入局後は、脳卒中や頭部外傷などの救急のほか脳腫瘍や脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患など幅広く診療をおこなってきました。医師7年目で脳神経外科専門医を取得し、専攻分野を決る段になって、私を脳神経外科に引き入れてくれた先輩が脊椎脊髄分野を専門とされていたこともあり、私も後を追うように専門にきめました。脊椎脊髄・末梢神経を専門にしてからは、首の痛みや腰痛、手足のしびれの患者さんを多くは診療させていただきました。手術だけでなく薬物療法、ブロック治療、装具療法、リハビリテーションにも熟知する必要があり、幅広く厚みのある診療を身に着けることができました。大学病院ということもあり一筋縄ではいかないご病気の患者さん方も拝見させていただき、とても貴重な経験を積まさせていただきました。私を信頼していただいている患者さん達は、私が大学を離れていた時期や、開業した今も、遠方からいらいしていただいています。

大学で高度な臨床を行い、また指導者の立場でもおられた森本先生が、自院開業へと向かわれた動機をお聞かせください。

医師の家系に育ったわけではなく、先入観なくリベラルな考えで医学の道に進み、自分としては誠実に全力で医療に取り組んできました。大きな転機となったのは、5年前に家庭の事情でライフワークバランスを整える必要が生じたことです。その少し前から診療や研究と並行し医局長にも就任し大変ではありましたが、充実した日々を送っていた矢先のことで、大学勤務医としてのキャリアを諦めざるをえない状況となりました。当時の教授に相談し、2年前の教授の退官までは大学での勤務を続けさせてもらいました。5年前から開業については考えはじめましたが、大学での勤務もあったので少しずつ情報収集をしはじめました。

開業の背景には、そのような事情があったのですね。でも、「やるからには」という決意もあったわけでしょう?

退職を決めたときに一番気がかりだったのが、診てきた患者さんのことです。私の個人的な事情で患者さんを放り出すようなことはできません。クリニックはその受け皿でありたいこと。メスを置くことにいささかの躊躇もなかったわけではありませんが、手術が必要な場合には信頼できるエキスパートに任せて、その前後で専門性を発揮することを基本方針としました。そこから、大学のラグビー部の後輩で、先に開業を成功させた黄哲守先生(ものいトータルクリニック院長)に相談し、日本医業総研の小畑吉弘さんを紹介していただいたというわけです。

地域への門戸を広げつつ、専門性の高い医療提供

大学病院とは違う、クリニックならではの提供する医療サービスをどのようにお考えですか。

MRIなどの検査機器をいれたり、脳神経外科ながらリハビリテーションができたりと手術など特殊な診療以外では大きな病院に近いレベルでの診療が可能です。ただ、当院のロケーションは練馬区上石神井駅から徒歩1分ですが、周囲には住宅街が広がります。効率よく集患するためには『頭痛外来』、『しびれ外来』、『腰痛外来』などを掲げるのが現在のクリニック経営のトレンドなのかもしれませんが、地域の医療需要に丁寧にアジャストしていこうと考えた場合、あえて専門性の高さは強調し過ぎない方がいいのではないか、幅広く門戸を開いて、そこから患者さんごとに専門性を発揮していくという方針にしました。

脳神経外科というやや気構えてしまいそうな診療科への受診のハードルを下げるというイメージでしょうか。

それもありますが、私自身が近所で暮らす開業医として、地域医療にキチンと向き合わなければならないということです。その実践のなかで、来院患者さんの二極化が見られます。MRIの導入にもかかわることですが、このエリアにはMRIを受けられる医療機関が多くありません。地域の患者さんの「頭痛」や「しびれ」「めまい」などの症状のほか、かつて出演していたテレビ番組「きょうの健康」(NHK)の視聴者などが遠方から来られます。上石神井の潜在診療圏は意外なほど広く、交通の便もよく千葉や埼玉、山梨、神奈川からもお越しになります。地域ニーズを意識すること、高い専門性、幅広く深みのある診療、メディアの情報力、良好なアクセス、充実した設備、これらが重なり、開業初日から多くの患者さんが受診される結果になったのだと思います。

疾患の早期発見、早期医療介入という意味で、脳ドックへの促しなどは考えておられますか。

脳ドックも受け付けてはいますが、あまり経営的な重きは置いていません。患者さんを適度に分散させる意味で予約診療としていますが、実際は普通に直来されるし、お越しいただける方はすべて診るというスタンスで対応しています。当院がいま優先すべきは、保険診療を受けられる患者さんの増患です。ドックは自費ですから、受けられる方は保険診療とは差別化されたホスピタリティを望まれるでしょうし、こちらも限られた時間のなかでサービスを工夫しようとすると、経営的に非効率と考えています。受診された患者さん全てに対して常に疾患の早期発見、早期治療介入を意識して丁寧な診療を心がけていいます。

クリニックの特徴として、施設基準を満たした運動器リハ機能を備えられています。これも、開業の構想段階からあったのですか。

恐らく都内の脳神経外科で運動器リハを併設しているクリニックは少ないのではないかと思います。さきほど申し上げた通り、手術以外の質の高い医療機能を満たすことが、当院のコンセプトです。クリニックでのリハはぜひやりたいと思っていましたし、やるからには中途半端にせず施設基準を満たす広さと人員を確保したいと考えていました。開院前には、リハビリを回すことができるのかという心配もありましたが、開院後は多くの患者さんにリハビリを利用していただいており、質の高い医療が提供できていると実感しております。整形外科医である私の姉がリハビリテーション医として協力してくれるており、かかりつけ患者さんの整形外科的疾患のサポートもしてくれるのが本当に助かります。

立ち上がりの数値は良好ですね。

 初月の試算表だけでは経営の評価にはなりませんが、ざっくりとしたところで、何とかなっているのかなという感じでしょうか。初期投資額も大きいし、採用した職員も多いですから、私としてはこのまま走り続けるだけです。

(コンサルタント小畑)まだ最終の数字は確定していませんが、保険点数だけでも損益分岐点は超えています。初月からの黒字スタートはなかなかあることではありません。ただ、初月のMRI件数が220件、つまり延べ患者数の約4割です。私の立てた事業計画は9割スタートで、徐々に下がる一方で外来が増えるというイメージでした。ところが、当院の初月の数値で、MRIの割合を補って余るのがリハビリです。初月からこれだけのリハのオーダーが出るとは思ってもいませんでした。非常にいい立ち上がりです。

遠方からの患者さんにも配慮した立地選定

立地選定ではそれなりの苦労があったようですが、この場所での開業は正解だったようですね。

どこで開業しても、それなりにやれたのかもしれませんが、自宅からも近く腰を落ち着けて診療に集中できるという点で、良かったと思っています。小畑さんからは、「患者さんは皆目的があって専門クリニックを探しますから、来るところには来ますよ」と言っていただきましたが、いまはその言葉に納得です。上石神井もテナント坪単価は決して低くはありませんが、都心に向かって賃料単価が上がります。テナントも広く賃料の負担も少なくありませんが、開院前の事業計画で無理のない経営ができる範囲内に収まっていました。少なくとも家賃のプレッシャーなく診療できるのは精神的に楽ですし、ビルオーナーも私も地元の人間同士なので、相互信頼感のようなものもあるのかなと思います。

物件選定において、「これだけは譲れない」という条件はありましたか。

私がなぜ開業するのかを考えたとき、これまで抱えてきた患者さんを、遠方から迎い入れるということがあげられます。わざわざ他県からお越しいただいたうえに、さらに駅からバス便というわけにはいきません。私の自宅からも近いので、理想的な物件と出会えて本当に幸運だと思っています。

あくまでも、患者さん本位ということですね。

 立地だけではありません。長期的な視点で、受付スタッフの接遇サービスも大事にしています。私自身は常に丁寧な診療を心掛けるだけなのですが、クリニックの「顔」となるのは受付スタッフです。接遇の質を維持し続けるためにどうするか? 自動精算機やキャッシュレス決済の導入は決して安価な投資ではありませんが、無駄な手作業を発生させないことは患者さんのストレスを軽減しますし、その分スタッフの接遇にも余裕が生まれることが目的です。さらに当院独自のサービスとして「メディカルホットライン」を提供しています。

「メディカルホットライン」ですか!?

かかりつけ患者さんしか利用できないシステムで、たとえば頭痛や腰痛で通院している患者さんで特に症状が重い場合などに利用でき、受付を通さず直接看護師とコンタクトすることができます。これもまた患者さんのストレスと受付の負担を減らすために導入しました。看護師も運営には協力的で、当院のかかりつけ患者さんだけが享受できるホスピタリティともいえます。

最後の質問です。今回の開業サポートは小畑が担当させていただきましたが、先生の期待や要望を十分に満たす内容でしたでしょうか。

信頼できる後輩からの紹介ということもあって、最初から小畑さんはお任せできる方だと思って接してきました。私は私なりのブレないコンセプトがあって、その都度好き勝手なことを言ってきたと思うのですが、小畑さんは忌憚なく、真正面から意見してくれました。意思決定を煽るようなことはせず、一つひとつ地固めしながらやりましょうと。これから開業される先生がこの記事を読まれることもあるでしょうが、開業は医師とコンサルタントの共同作業です。コンサルタントには思いの限りを全てぶつける、そのうえで、コンサルタントは不足する要素を補い、余計な部分を削る。小畑さんがどこまで意図されていたかは分かりませんが、私たちの共同作業は確実に結果を出しました。

 

院長プロフィール

院長 森本大二郎 先生
医学博士
日本脳神経外科学会 専門医
日本脊髄外科学会 認定医・指導医・代議員
脊椎脊髄外科 専門医
日本脊髄障害医学会 評議員
日本仙腸関節研究会 幹事
末梢神経の外科研究会 世話人

2000年 日本医科大学 卒業
2007年 日本医科大学大学院 卒業
2012年 釧路労災病院 脳神経外科 部長
2017年 日本医科大学 脳神経外科病院 講師
2023年 神谷町脳神経外科クリニック
2024年 上石神井もりもと脳神経外科 開設

Clinic Data

Consulting reportコンサルティング担当者より

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