診療所開業 ~ 診療科別開業成功のポイント ~

◆小児科 編

 

公費負担によるワクチン接種や、比較的高い診療保険点数が維持されている小児科ですが、長期的視点に立てば少子化に伴う市場の成長性に不安定な先行きも予測されますので、10年後、20年後を見越した立地選定が非常に重要になります。また、競合の多い診療科だけに、患児や保護者にとっての安心感、受診への利便性といったサービス体制を整備することが、差別化の大きな要因となります。

 

≪ポイント≫

・15歳未満の人口数が一定数維持されている地域での開業。持ち家率が低く、賃貸住宅、社宅等子育て世帯の流動性に富む地域が狙い目
・保護者(母親)の利便性に配慮した、駐車の容易な駐車場の確保と、診察予約システムの導入
・利用者の離散を防ぎ囲い込みにもつながる、スタッフ接遇や子育て支援といったソフト面を強化

 

②事業計画

 

 小児科の事業計画のポイントは、自費診療(乳幼児健診やワクチンなどの予防接種など)の割合を収入全体のどの程度に設定するかという点と、収入の季節変動をどう開業時期と事業計画に反映させるかという点であり、この設定によって資金繰り内容が大きく変わってきます。

 私どもの開業支援事例では、開業後の経営支援を通じて、都道府県により若干の違いはあるものの、概ね保険収入6:自費収入4が平均値的な割合となっています。

 診療圏調査の結果をもとに、保険診療の患者数予測が立てられますので、小児科の保険診療の平均診療単価約4,000円を掛け合わせて、月の保険診療収入額を算出すれば、上記比率に当てはめ自動的に自費収入を想定することができるというのが、小児科の事業計画の収入計画の特徴です。

 事業計画のサンプルを見ていただくと、損益分岐点における収入イメージは、1カ月当たりの保険収入2,268,000円、自費収入1,512,000円の合計3,780,000円となっています。これを1日当たりの必要患者数でみてみると、保険収入は小児科の場合、1日当たりの診療単価が約4,000円ですので、1カ月当たりの保険収入を月間稼働日数、1日当たりの診療単価で割り戻すと27人になります。自費収入に関しては、私どもの開業支援事例から、自費収入をワクチンなどの予防接種や乳幼児健診で来院される患者数で除すると、患者さん1人当たり1万円程度になる場合が多いようです。上記の損益分岐点における1カ月当たりの自費収入が1,512,000円ですので、月間患者数は約151人。これを1カ月の稼働日数で除すると1日当たりの患者数は7.2人となりますので、保険診療で来院される患者数と自費収入で来院される患者数の合計は、1日当たり約34人ということになります。損益分岐点をイメージするときに、1日どれだけの患者数を獲得すればよいかの参考にしていただければと思います。

 ただし、保険収入と自費診療収入では、原価率(収入の増加とともに増える経費で、薬品材料や外注検査費がこれにあたります)が大きく異なりますので、自費収入(特にワクチン接種)の原価率は高めに設定する必要があります。

 ここで、都道府県の違いが出てくるのですが、ワクチン代も含めて医療機関に振り込まれる場合と、予防接種に関しては、接種料のみを医療機関に振り込み、材料代は行政から直接業者に支払われる(材料は行政から支給)場合がありますので、事前に開業するエリアがどのような仕組みになっているかを確認したうえで事業計画に反映させます。

 

 

 事業計画のサンプルでは、患者数の推移予測を右肩上がりで設定していますが、小児科の場合は季節によって患者数が大きく変動するため、開業時期に合わせて、患者数の伸びの設定を考えておかないと、資金繰りに大きく影響してきます。開業後の経営支援を通じて小児科の収入の季節変動に着目すると、来院数のピークとなる冬場の11月~1月を100とした場合に、患者数がもっとも減少する8月は60と非常に差が大きいことから、開業月の設定によって、立ち上がりの収入計画が大きく変わってくることになります。小児科診療所の開業支援経験が豊富なコンサルタントや会計事務所などの協力を得て精緻な事業計画を作成されることをお勧めします。

 人員配置は一般内科と同様、受付は常時2名、看護師は常時1名の体制で事業計画上の人件費計画としては問題ありませんが、弊社の開業支援事例では、待合室で看護師が基本的な問診を行い重症度を判断するなど、看護師を常時2名体制とすることで診察の流れの滞りを防いでいる先生もいらっしゃいますので、そうした体制で診療所を運営したいとお考えの場合は、予め事業計画に反映しておく必要があります。

 経費内容については、経営戦略、立地選定で述べたように、インターネット上で来院予約(順番、診療時間)を取ることが一般的になっているので、ホームページ内容の充実が集患に奏功するケースが多く、広告予算を多めに確保する必要があります。インターネット広告に力点を置く場合、広告予算の上限を設定し、その範囲内でメリハリの効いた配分を心がけてください。

 資金計画(開業時の貸借対照表を参照)に関して、医療機器については、小児科の場合は、レントゲン設置の有無によって投資額が変わってきます。レントゲンを設置する場合は、スペースの問題と内装のX線防護工事が必要になり、事業全体の投資額が増大しますので、先生の診療方針、予測される使用頻度などと照らし合わせよく検討すべきでしょう。

 そのほかの医療機器については、血液検査機器やワクチン保存用の専用冷蔵庫などにどの程度のスペックを求めるか、ベビースケールを導入するかどうか、といった点が検討項目になります。

 また、運転資金をどれだけ確保するかという点については、地域ニーズに対して小児科診療所が少ない場合は、比較的早期に事業が立ち上がるケースもありますが、最低でも開業後1年間分の月次の収支計画を立てて、損益分岐点を超えるまで事業資金が枯渇しないように、慎重に開業準備を進めていただくことが重要です。

 

 

~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~

 

★次回は 小児科の職員配置・採用計画 を掲載予定です

 

<過去のブログ>
消化器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/6月更新分

消化器内科 ②事業計画        2023/7月更新分

消化器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/8月更新分

循環器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/9月更新分

循環器内科 ②事業計画        2023/10月更新分

循環器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/11月更新分

呼吸器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/12月更新分

呼吸器内科 ②事業計画        2024/1月更新分

呼吸器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/2月更新分

糖尿病内科 ①経営戦略・立地選定   2024/3月更新分

糖尿病内科 ②事業計画        2024/4月更新分

糖尿病内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2024/5月更新分

小児科   ①経営戦略・立地選定   2024/6月更新分

 


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