◆循環器内科 編
循環器内科で獲得したい高血圧症や不整脈、動脈硬化症、狭心症といった症状の患者さんは一般的な内科を含め地域内での競合は避けられません。高い専門性を実践するための高機能医療機器の導入、実施する検査を加味した診療単価の設定、さらに地域によっては高齢者に多い合併症への対応等が患者さん囲い込みのポイントになります。
≪ポイント≫
・一般内科をメインとする場合は、現勤務先患者さんを定期受診者として引き継げる条件下でのエリア選定が賢明
・高齢者に多い広域な合併症への対応も患者さん囲い込みに有効
・専門性を打ちだす場合、心エコーやホルダー心電図などの比較的点数の高い検査の実施が、診療単価を効果的に押し上げる
②事業計画
循環器内科の事業計画のポイントは、1日当たり診療単価の設定と、それに伴う原価率の設定、さらに開業後3年間の1日当たり患者数の推移をどのように推測するかです。
診療単価について、専門的な治療を希望される患者さんの来院比率が高い場合は、心エコーやホルター心電図といった診療点数の高い検査の実施件数が多くなり、全体の平均診療単価を押し上げることになります。
また、循環器内科をメインとしながらも、状況によって糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などの治療を併せて行う場合は、どちらも材料費が診療報酬で評価されているなどの関係から診療単価が高くなることが想定されます。ただし、材料費として支出が増えるので、原価率(収入の増加とともに増える経費で、薬品材料や外注検査費がこれにあたります)を一般内科と比べて高く設定しておかないと収支バランスの予測が上振れしてしまいます。診療単価を高めに予想する場合は、原価率の兼ね合いにも注意が必要です。
このように、診療所の事業コンセプトにより、診療単価の設定は微妙に異なってきますので、診療所開業の支援実績が豊富なコンサルタントや会計事務所とよく相談して事業計画を作成することをお勧めします。
事業計画書のサンプルでは、1日当たりの診療単価を6,000円とし、心エコーやホルター心電図も導入する計画となっています。循環器内科専門を想定していますので、糖尿病患者や睡眠時無呼吸患者など診療単価が高い患者さんの来院比率を抑えめとし、原価率は薬品診療材料比率で5%、外注検査費比率を3%と予測しています。
また、1日当たりの来院患者数の推移については、前勤務先から患者さんを引き継げる立地で開業するケースと、見込み患者数がゼロの落下傘開業では、立ち上がりに大きな差が生じてきます。開業後の事業の立ち上がりが悪いという相談を持ち掛けられる際に、開業前に立案された事業計画書を拝見することがありますが、問題となる部分は、やはり患者数の推移の読みの甘さです。そうした事業計画の中には、1年目の1日当たり来院患者数を年単位で設定されているものが散見されます。
しかし、仮に年間の1日当たり平均来院患者数が20人と仮定した場合、開業初月の1日当たり平均来院患者を5人とし順調に右肩上がりで推移したとすると、1年後の1日あたり来院患者数は35人まで増やさなければならないことになります。
前勤務先から患者さんを引き続き診療できる環境であれば、1日当たり来院患者数35人というのは現実的かもしれませんが、落下傘開業の場合は、診療圏調査で潜在患者数がどれだけ期待できるのかという数字と比較して、1日35人という数字を十分上回っていないと、1年後にこんなはずではなかったという事態に陥りかねませんので慎重な読みが必要です。
人件費の計画については、エコーを専門に行う臨床検査技師の採用の有無で変わってきます。循環器を専門とする診療所であっても、一般内科と同様、受付は常時2名、看護師は常時1名の配置体制で事業計画上の人件費計画としては問題ないと考えられますが、顔見知りの臨床検査技師が、非常勤で心エコー検査の支援に加わったり、先生1人で対応できない数の検査件数が見込める場合は、臨床検査技師を常勤採用するケースもあります。心エコーを任せられる臨床検査技師の場合は、給与設定が比較的高く、非常勤採用においては、日当相場を確認の上、月(週)何回の勤務を設定するかで月当たりの人件費を算出することになります。常勤採用の場合も、求人エリアにおける臨床検査技師の相場観よりやや高めの給与に設定しておくことが望まれます。
資金計画(開業時の貸借対照表を参照)に関しては、医療機器の投資額において、エコーや心電計が一般内科と比較して高機能のものを導入することが多いため、実際に導入を検討する医療機器をもとに予算設定しておかないと資金が不足する事態にもなりかねません。
また、一般内科では導入の少ない血液検査機器などを開業当初から導入するケースもあり、収入見込みとのバランスを慎重に検討しないと過剰投資となる可能性があるので注意が必要です。
医療機器を一式2,000万円などざっくりと設定した事業計画書を見ることがありますが、導入予定の医療機器の種類ごとに実態に即した予算を設定しておかないと、価格交渉がうまくいっているかどうかの判断もつきませんので、やはり、循環器内科診療所の開業支援経験が豊富なコンサルタントや会計事務所などの協力を得て精緻な事業計画を作成されることをお勧めします。
私どもで事業計画を作成する際は、資金の入りは少なめに、出は多めに設定しますので、導入するかどうかで悩んでいる医療機器があれば、導入する前提で資金計画を作成し、収支のバランスと実際の開業準備が進むなかで医療機器の価格交渉を行い予算に収まるかどうかを見極めながら、最終的に導入の可否を確定させることになります。
また、運転資金をどれだけ確保するかという点については、循環器内科の新規開業の事業の立ち上がりが年々厳しくなっておりますので、最低でも開業後1年間分の月次の収支計画を立てて、損益分岐点を超えるまで事業資金が枯渇しないように、慎重に開業準備を進めることが重要です。
~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~
★次回は 循環器内科の職員配置・採用計画 を掲載予定です
<過去のブログ>
消化器内科 ③職員配置・採用計画 ④プロモーション戦略 2023/8月更新分