診療所開業 ~ 診療科別開業成功のポイント ~

◆消化器内科 編

苦痛の少ない内視鏡の普及や、健診・人間ドックでの上部消化器官内視鏡検査が一般化したことで、内視鏡検査へのハードルはかなり低くなりました。よって、これからの消化器内科の新規開業では、この内視鏡の取扱いが事業計画や立地選定に大きく影響することになります。消化器内科で成功された先生のなかには、消化器疾患の一般外来と内視鏡センターを別施設で対応し、提供する医療の幅広さと専門性を同時にかなえているケースもあります。

 

≪ポイント≫

・内視鏡を導入しない場合は、専門性より「かかりつけ医」を意識

・上部内視鏡だけでは、専門性という差別化要因にはなりにくい

・上部・下部内視鏡(ポリペク)を実施する場合は、広域に集患可能なターミナル性に富む立地で、

  「内視鏡専門クリニック」を打ち出すことで優位性を発揮

 

②事業計画

 

 消化器内科の事業計画における重要なポイントは、内視鏡検査の収入計画を、外来診療と分けて管理することに併せ、内視鏡の実施計画に応じた人員配置、医療機器投資額を詳密に検討する必要があることです。医師が院長1人であっても、部門別の適正な採算性を探るわけです。

 内視鏡検査は診療単価が高く、実施件数見込みによって収入計画が大きく変わってきます。特に、下部内視鏡において、ポリペクを実施した場合は手術点数となりますから収入の差が非常に大きくなります。具体的には、検査のみの場合「大腸内視鏡検査:上行結腸及び盲腸1,550点」の算定であるのに対し、検査中にポリープが見つかり、その場で切除すると「内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術:直径2㎝未満5,000点、直径2㎝以上7,000点」を算定することができます。ただし、ポリープを切除した場合は、病理検査を外注委託で行うことになる場合が多いので、検査委託費(原価率)を一般内科より高めに設定しておく必要があります。

 内視鏡を導入する場合は、診療体制を明確にした上で、収入計画を練る必要があります。例えば、一般の外来診療時間と並行して上部・下部内視鏡を実施している診療所もあれば、上部内視鏡は午前の診療開始前に時間枠を設定し、午後の外来診療開始前に、下部内視鏡検査時間枠を設定して実施している診療所もあります。

 外来と並行して内視鏡を実施する場合は、当日の外来の混み具合や予約状況に応じて検査件数が変動しますが、時間枠を設定する場合は、1日に実施可能な内視鏡件数の上限が自ずと決まってきますので、それに沿った収入計画を立案することになります。

 実際の事業計画では、一般外来の収入計画と内視鏡検査の収入計画を分けています。一般外来については、消化器内科の場合は、エコー検査や内視鏡検査実施前の血液検査などが収益として期待できるため、弊社の開業支援実績に基づき、1回当たりの診療単価を6,000円として計画を立てています。この事業計画の患者数と診療圏調査結果による開業候補地における1日当たりの推定外来患者数を比較し、診療圏調査結果の患者数の方が多ければ、事業として成り立つ可能性が高いということになります。

 

 

 内視鏡検査の収入計画については、診療単価は、診療報酬点数の検査点数を設定しています。私どもの開業支援事例では、下部内視鏡検査数の約半数がポリペクの対象となり、手術点数になりますので、検査点数と手術点数の差額を内視鏡実施件数に加えることとなります。内視鏡実施件数の設定については、先に述べたように、内視鏡検査の時間帯を設定する場合は検査数に上限がありますので、1日当たり、上部内視鏡、下部内視鏡それぞれ何件という枠を設定するなかで、検査予約数を予測して収入計画を立てることになります。検査予約数を確保するために継続的な広告が必要になるケースもありますが、広告費の予算設定にも影響してきますので、開業後の取り組みを念頭に置きながら事業計画の数字に反映させていくことが重要です。また、検査予約数の増加とともに、検査の合間に内視鏡の洗浄・消毒が必要になることから、内視鏡ファイバーの本数を増やすことも考慮しなければなりません。

 人件費の設定についてですが、内視鏡の実施体制の違いは、スタッフの人員配置にも大きく影響します。外来診療と同時並行で内視鏡検査も実施している某診療所では、内視鏡検査室に看護師を常時配置し、先生が検査実施の時だけ内視鏡検査室に移動する体制を整え、外来の待ち時間への影響を最小限に抑える無駄のないオペレーションを実践しています。このような診療スタイルの場合は、看護師の配置人数が多くなりますので、人件費の設定を行う際に、反映させておかなければなりません。

 一方、時間枠を設けて内視鏡検査を実施している診療所では、検査の時間帯は予約患者さんしか来院しないことから、受付・看護師とも常時1名とし、スタッフ配置の効率化を図ることで人件費をうまくコントロールしているケースもあります。ただし、法定労働時間を遵守し、1日8時間労働を超える場合はスタッフの増員が必要になります。

 このように、現実的な診療体制をシミュレーションした事業計画を立案することで、よりリアリティを持った事業計画になり、事前の事業予算と開業後の実績を比較するなかで、どの部分に相違が発生しているのかを明確にすることができます。

 また、内視鏡を導入する場合は、医療機器の投資額に大きな差が生じます。どの医療機器をどこまで入れるのか、開業当初からの導入が必要なのか、内視鏡実施件数に応じて増やしていけばよいのかなど、収入計画に応じて複数のパターンを作成して、検討することが重要です。さらに、医療機器の初期投資額に加えて、内視鏡については保守料や、検査中の破損リスクに備える保険加入にかかるコストも考慮する必要があります。

 資金計画(開業時の貸借対照表を参照)に関しては、内視鏡を導入する場合は、医療機器の投資額が膨らむため、まずは、先生の理想とする形で開業した場合の事業計画の作成をコンサルタントに依頼し、併せて必要資金の調達が可能かどうか、金融機関への事前の打診が重要です。

 医療機器を購入する場合と、リース契約とする場合によって、月々の資金繰りが変わってきますし、医療機器の入替えのタイミングなども検討材料になりますので、「購入」「リース」それぞれのメリット、デメリットを比較して、事業計画の内容を慎重に検討することになります。また、運転資金をどれだけ確保するかという点については、消化器内科の新規開業の事業の立ち上がりが年々厳しくなっておりますので、最低でも開業後の1年間分の月次の収支計画を立てて、損益分岐点を超えるまで事業資金が枯渇しないように、慎重に開業準備を進めることが重要です。

 

 

~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~

 

★次回は 消化器内科の職員配置・採用計画 と プロモーション戦略 を掲載予定です

 

<過去のブログ>

消化器内科 ①経営戦略・立地選定   2023/6月更新分

 

 


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