夫婦二人三脚での開業の意思決定と「1年間は我慢」の覚悟……!? 女性医師の強みと高度な医療機能を最大限に発揮し、開業翌月には黒字経営を達成

奥牧朋子 先生 インタビュー

おくまき内科・消化器内視鏡クリニック
院長

医師になられたきっかけには、お父様の影響もあったのでしょうか。

(奥牧院長)父は浦和で内科クリニックを経営していましたが、高校生までは父の影響どころか、逆に反発心のようなものが強かった気がします。大学は法学部を受験しようかと悩んでいた私を医療に導いたのは、当時お世話になっていた社会科の先生でした。法律を学んでも、その知識を活かせる仕事に就ける人はごくわずか、でも医師の仕事は大学での学びにそのまま直結しているというわけです。その言葉が胸にストンと落ち、父への反発心も消散しました。先生のアドバイスの本当の意図するところは分かりませんが、私にとっては大転機となりました。

消化器内科に進まれた理由をお聞かせください。

研修で複数の診療科を回った際に、すんなりと納得できたのが消化器内科でした。基本的に内視鏡が好きなんですね。ポリペクやEMRなど外科に近い治療も行いますし、CTなどの検査画像と臨床所見を結び付けて疾患にアプローチしていくことにも興味をもちました。女子医大では消化器内科医局でも女性の先輩医師が多く、皆さんサバサバとした姉御肌の気質だったことも私には合っていたように思います。

女子医大をはじめ、中核病院で約20年間勤務されてきたなかで、開業へと向かう意識の変化のきっかけはあったのでしょうか。

勤務医に特に不満はなく、開業の1年前までは、まるで想像もしていませんでした。過去に父のクリニックを承継しないかという話はあったのですが、私としてはもっと病院で研鑽を積みたかった時期でタイミングが合いませんでした。その後、出産と子育て、一昨年から続くコロナ禍での診療の精神的・肉体的負担の増加、勤務先病院の移転計画など私生活や仕事環境が目まぐるしく変化しましたが、子どもが小学生になり、勤務医生活20年で技術・臨床能力ともに自信がついてきたこと。さらに診療放射線技師の夫の協力や後押しもあって、開業が現実味を帯びてきました。私自身のキャリア、生活環境、仕事環境などが重なり合った結果です。

私ども日本医業総研には、ウェブでお問合せをいただいたわけですが、2011年に開業された、ひらのメディカルクリニックの平野智久先生のことをご存知ということでしたね。

平野先生とは谷津保険病院で一時期ご一緒させていただきました。診療科が違いますし、年齢も離れているので特に親しかったというわけではありませんが、医療に対するこだわりがとても強い先生という印象でした。医業総研のホームページに平野先生の開業インタビュー記事を見つけて、あの平野先生が選ばれたコンサルティング会社なら間違いないだろうと思いました。

他のコンサルティング会社とは比較されなかったのですか。

事前にいろいろと調べていると、医療機関を顧客にもつ卸業者さんや調剤薬局などにも開業サポート部門があるようで、正直なところ何がいいのか、どのサービスがどう違うのかがわかりませんでした。医業総研に相談した際に最初に面談したのは、植村智之さん、小畑吉弘さんの両名でしたが、平野先生の開業エピソードのほか、医局の先輩にあたる石井史先生(いしい内科クリニック院長)の開業サポートの話などもされ、人間味溢れる人柄にこの方たちならお任せして大丈夫だと感じました。

弊社主催の「医院経営塾」にもご参加いただきましたね。

一部のオンライン参加も含め、夫婦で全講を受講しました。開業や経営についてはまったくの素人でしたので、系統立てられた構成は分かりやすく、参加者自らが考えて計画書を作成するなど勉強になりましたし、自分たちが経営の当事者としてどういうことをやらなければならないのかが理解できました。

先生の開業の意思決定には、ご主人の協力という部分も大きかったということでした。これはご主人にうかがいたいのですが実際にどのようなやりとりだったのですか。

(ご主人〈事務長、RT〉)院長がどういう患者さんに、どんな医療を提供したいのかが一番大事だと思いました。女性が内視鏡検査を受けたくても、とくに大腸の場合はできることなら男性医師を避けたいというのが本音でしょう。そこは大きな強みとなります。加えて、消化器系の不調や、急性症状を訴える患者さんに対してはCTを導入することで、より的確な診断に基づく治療法を選択できます。私が診療放射線技師なので、専門職の人件費が経営上の負担になることもありません。まず、院長のやりたい医療を尊重して、私でサポートできること、たとえば医療機器の選定やシビアな価格交渉なども(笑)私が担当しました。お互いに得手不得手を補い合いながら、ベクトルを共有して頑張っていこうという感じです。

先生のご意見はいかがですか。

消化管だけだと診断できる疾患領域が限定されますから、CTの導入は不可欠だと考えていましたし、私自身のこれまでの臨床経験においてもCTは大きな武器でした。外来で一旦薬を処方して、3日間様子をみてまた受診してください、という診療で症状が改善する患者さんもいるわけですが、その場でCTを撮ることで早期診断と適切な治療につなげてきたことも事実です。最大の理解者である夫が事務長を兼任する診療放射線技師なのは私にとってはとても心強いし、それは当院でカバーできる専門性の高い診療領域を意味します。患者さんも「クリニックでCTがあるんですね」と結構驚かれます。

先生にとっては出身地となる埼玉ですが、具体的な開業エリアのイメージはあったのですか。

最初はさいたま市浦和区の自宅近く、南浦和や武蔵浦和あたりを候補に考えていましたが、なかなか希望に沿うテナント物件が出てきませんでした。南浦和で最初に目をつけた物件では、オーナーがクリニックの誘致に乗り気でなかったのか、理由も曖昧なままで相手にしていただけませんでした。もう少し広域に目を向けようと小畑さんに相談し、提案いただいたのが与野でした。プライベートな生活圏からは少し離れますが、それでも電車で2駅、車を利用すれば15分程度ですから、通勤の苦はありませんでした。

今回開業された物件をご覧になっての第一印象はいかがでしたか。

最初はどうなのかな……と? 与野駅周辺の商業施設は反対側の西口に集中し、日常的に人が集まります。小畑さんの診療圏調査でも、東口に不利な数字が示されていました。この物件は駅東口から徒歩1分と近いのですが、前面道路が狭く生活動線といえるのは、やや離れた旧中山道になるので、人通りはあまり期待できません。それでも新築の割には賃料が安く、広さも約50坪とCTの導入に必要な広さが確保されていました。周辺の競合クリニックはしっかりとした地盤を固めておられたので、あとは、地道に地域からの信頼を積み上げていこうと判断しました。

先生の実現したい医療について、スタッフに期待することは何でしょうか。

日常の定型的な業務に高度な知識や技術は求めません。ただ、治療の足掛かりとして当院に来院される患者さんには、症状以上の不安を抱える方が多くおられます。スタッフには、その気持ちを受け止めてあげて、ここに来て良かったと不安を安心に変えてお帰りいただくような行動を心掛けて欲しいと思いますし、患者さんに喜んでいただいたスタッフの行動は、私自身が認め称賛するようにしています。

先生がホームページに書かれた「やさしい内視鏡」のコンセプトについてご説明いただけますか。

勤務医時代の病院外来や検診施設などで、流れ作業のように患者数をこなしてきたなかで感じていたのは、患者さんを最初に診察した医師が、内視鏡もやるべきだということで、私はできるだけそうしてきました。患者さんの発する言葉にはそれぞれの思いがあります。過去の内視鏡検査で苦痛を感じた経験や、経鼻より経口でお願いしたい、女性などは「急に違う先生が来て……」という場面を何度も経験してきました。患者さんの訴えを十分に理解して、一番いい方法を提案し自ら実施することが信頼関係の第一歩です。内視鏡を終えたあとに「お疲れ様でした」の一言をかけるのは、手技的なこととは意味合いが違います。ここで内視鏡を受けてよかった、と思っていただけるクリニックでありたいと思います。

そうした先生の思いを実現するために不可欠なのは、運営を支えるスタッフの存在ですね。

看護師は、内視鏡の経験はありませんでしたが、私と一緒に病院での研修を受け、開業後はテキパキと業務をこなしてくれています。外科系の経験が長い方だけに患者さんに対するケアも的確で、大きな戦力になっています。受付の二人は、クリニック業務の経験者を採用しました。患者さんに対する笑顔の接遇は申し分なく、逆にクリニック勤務の経験がない私たち夫婦をリードしてくれています。厳しい立ち上がりを予測して、最小限の人数配置でスタートしましたが、皆さんが私の思う診療スタイルを体現してくれています。

チームワークを醸成する意味で、日常的に行っていることをお聞かせください。

毎朝、簡単なミーティングをしている程度で、あとは家庭の日常や子どものことなど、普通に女性同士の雑談をしています。院長だから、などという立場は意識せず、皆横並びの雰囲気を大切にしています。あとは、夫が事務長としてかかわってくれていることで、コミュニケーションは円滑だと思っています。

開業直前の10月2日、3日の二日間で行われた内覧会は盛況だったようですね。

予想を超えて、2日間で300人以上来てくださいました! 用意した粗品が足りなくなってどうしようかと(笑)。知り合いの方が来てくださっても、ゆっくりとは話ができないほどでした。

 (ご主人〈事務長、RT〉)来場者は圧倒的に女性が多く、期待値と同時に、女性医師が実施する内視鏡へのニーズの高さを実感できました。

内覧会での内視鏡予約はいかがでしたか。

まずは診察でじっくりと話をうかがってから、必要とあれば内視鏡をと説明したところ、約2週間分の診察予約が埋まりました。予約者のほとんどが検査につながりましたので、立ち上がりの不安が解消されたのは大きかったと思います。

導入されたCTの稼働状況はいかがでしょうか。

(ご主人〈事務長、RT〉)開業初月は1日平均1件。今月はすでに20件を超えていますので、着実に増えています。まずはコンスタントに1日2件をクリアしたいと思っています。一方で、内視鏡の数が予想を大幅に上回っています。小畑さんからは、「開業から1年は辛抱してください」とアドバイスされましたが、2カ月目の今月には、損益分岐点売上を達成できる見込みです。

現在の来院患者さんの一般内科と消化器内科の割合、それと年齢傾向や男女比はいかがでしょうか。

疾患別でいうと消化器系が約8割といったところです。男女別では、インフルエンザワクチン接種の方を入れると男性も増えますが、それでも検査目的では女性が約9割を占めています。年代は幅広く20代から80代で、特に高齢者に偏っているわけではなく、40~50歳代がコア層となっています。大腸検査を受けたかったけど、病院にハードルの高さを感じていた方や、女性専門医を探していた方も多く、ほぼ想定どおりの方々にお越しいただいています。

ホームページにも記載されていますが、女性が罹患する部位別のがんでは、大腸がんが1位となっています。できるだけ定期的な検査が必要と思われますが、専門医として、そうした啓蒙活動も必要ではありませんか。

女性の大腸がんが増えつつあるなかで、検診学会などは広報活動を活発化していますが、私自身は外部に対してそこまでは手が回りません。ただ、他の疾患や胃カメラの受診者などから「こんな症状でも大腸内視鏡を受けていいのか」と訊かれることがあります。たとえば便潜血陽性でないと受けられないかとか、近親者に大腸がんの方がいらっしゃったり、日常のところでは、便秘や下痢気味といった症状の方も多いので、「積極的に大腸内視鏡検査を受ける理由になりますよ」とアドバイスしています。大腸内視鏡に対するハードルは、まだ高いと感じていますが、がんを見つけるだけの目的ではなく、受けることで安心していただくこともクリニックの役割だと感じています。

今回、開業をサポートさせていただいた日本医業総研について、忌憚のない評価をお聞かせください。

担当の小畑さんが目の前にいるので言うわけではありませんが(笑)、私たち夫婦のことをよく理解され、本当に頼りがいがあったということに尽きます。開業・経営を指南してくれるだけではありません。クリニック開業には、内装の設計・施工やホームページ制作会社、広告宣伝会社などさまざまな業者さんがかかわります。それらはすべて開業に不可欠なのですが、小畑さんの求めるクオリティとコストバランスの厳しさを熟知している担当者が選り抜かれていたような印象で、それぞれの方が気合を入れて頑張っていただいているのがすごく伝わってきました。
 事業計画についても、「この売上計画には先生が女性であることは一切加味されていません」と、当院の強みをあえて反映させない厳しい数値を示されましたので、私たちも強い覚悟をもって挑めたことが、2カ月目の黒字化に帰結したのだと思っています。

これから開業をお考えになる女性医師に対するアドバイスをいただけますか。

まだまだ成功といえる段階にありませんが、基本的に女性医師は真面目で仕事もコツコツと積み上げていくタイプが多いと感じています。一方で、独身の間は男性と同じ条件下で働くことができても、結婚・出産・育児とどうしても仕事をセーブせざるを得ない期間があって、せっかくの専門性が発揮できない状況が生じてきます。それでも、女性だから患者さんに寄り添える、女性だから患者さんを励ますことができる部分が多々あります。男性と同じキャリアを積めなくても、女性として積み上げてきた経験は決して裏切ることはありません。クリニックは、男性にはできない診療スタイルを実現できる場でもあると思っています。

院長 奥牧朋子 先生

院長プロフィール

日本内科学会 認定内科医
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本ヘリコバクター学会 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医

1999年 東京女子医科大学医学部 卒業
東京女子医大消化器病センター内科 入局
2001年 国立横浜病院(現、国立病院機構横浜医療センター)消化器内科
2002年 埼玉済生会栗橋病院 消化器内科
2003年 東京女子医大消化器病センター 内科
2005年 医療法人社団保健会 谷津保険病院 消化器内科、健診科
2010年 埼玉済生会栗橋病院 消化器内科
2021年 おくまき内科・消化器内視鏡クリニック 開設

Clinic Data

おくまき内科・消化器内視鏡クリニック

内科 消化器内科

埼玉県さいたま市浦和区上木崎1-2-5 東栄アネックス与野2F

TEL: 048-767-8717

https://okumaki-clinic.jp

お問い合わせ