4月の開業からまだ2カ月ですが、すでに1日50人を超える患者さんが来院されることもあります。なかでも、皮膚科の患者さんが、思いのほか多いとうかがいましたが、実際はいかがでしょうか。
ありがたいことですね。総患者数だけでいえば、事前の事業計画の6カ月目の数字をクリアしています。泌尿器科と皮膚科の患者比は概ね1:2という感じですが、もう少し効率性を高める工夫が必要と感じています。皮膚科は勤務医時代に高齢者の褥瘡や、透析患者さんの皮膚トラブルなどに対応してきましたが、中途半端な知識と経験で診療するわけにはいきませんので、開業前の2年間、泌尿器科をやりながら皮膚科学会にも所属し真剣に皮膚科を学びました。
患者さんの来院動機は集計されていますか。
初診時の問診票に書いていただいていますが、8~9割はクリニックの建物を見て来院いただいています。ホームページでは専門業者の手を借りずに自分でリスティングを実施し、問い合わせは確実に増えつつあります。今後はウェブ検索での来院比率が高まるものと思われます。
最寄り駅からはバス便ですが、目につきやすい幹線道路に面した戸建て開業という立地選定が正解だったということですね。ところで、先生が泌尿器科を専門領域に選ばれた理由は何でしょうか。
父が実家のある岩手県盛岡市で泌尿器科医をやっています。特段、そのことを意識したわけではありませんが、学問としてスッと受け入れることができたのが大きかったと思っています。
疾患の範囲が広く、担当医が内科的疾患管理から必要に応じて手術も執刀する泌尿器科医療のやりがいはどこにありますか。
泌尿器科の大きな特徴は初診時の問診から検査、診断、治療、そして病状によっては手術まで一人の医師が担当します。がん患者さんにおいては術後数年にわたり、再発チェックのための経過観察を行うことになりますから、双方の信頼関係に基づくコミュニケーションがとても大切になりますし、そうした人間関係が育まれることに医師としての大きなやりがいを感じます。
長期のスパンでとらえると、泌尿器にかかる患者数が随分と増えているようですね。
高齢化に伴い前立腺肥大症などの排尿障害の患者さんは増えていますが、人々の健康に対する意識が高まり、定期健診などをきっかけにがんの早期発見も増えていると思います。前立腺がんに関しては、日本では食生活の変化で発生率は、第1位になっており、地域医療においても増えている印象です。
患者さんとの長い付き合いのなかで、前勤務先で診てきた患者さんを引き続き診るケースもありますか。
当院にはまだいらしてませんが、連絡を絶やさない患者さんが2名ほどおられます。最初は日本大学医学部附属板橋病院で膀胱がんの手術をし、医局人事で異動した駿河台日本大学病院、日本大学医学部附属練馬光が丘病院、そして大学退職後の埼友クリニックでも経過を診てきましたからもう20年以上のお付き合いになります。
そうした患者さんとのコミュニケーションでとくに気を付けていることは何でしょうか。
病気が良くなるかどうかは患者さん本人にかかっているということです。疾患のことを十分に理解し、治療法も選択していただいて、最終的にはご自身でケアできることが一番大事です。私たち医師の役割は、決して高飛車になることなく、丁寧な説明に心がけ、望ましい治療の選択肢を示すわけです。病気が良くならない原因は必ずあります。そのためにも疾患だけに目を向ける一方通行のコミュニケーションではなく、患者さんの生活背景や環境に視座し、十分に理解する必要があると感じています。
先生は大学病院での先進医療の提供から、地域医療を提供する有床診療所勤務に転じられたわけですが、自院開業となったきっかけは何だったのでしょうか。
日大附属病院から移った埼友クリニックは有床診療所で、腎臓を中心とした内科と泌尿器科、140ユニットが稼働する透析治療のほか在宅医療も実施していました。私の専門領域はあくまでも泌尿器科でしたが、一生治療が続く透析患者さんなどとも接して一人ひとりの人生観に傾聴するなど、大学の急性期医療では経験できなかった地域医療やプライマリケアのあり方を学ぶことができたと思っています。また、クリニックが導入していた業務の効率化などもリアルに経験することができました。開業に関しては、私が理想と考える地域医療の在り方を考えるようになり、自分が望む理想形を追いかけた結果ということです。
今回、開業サポートとして私ども日本医業総研にお声掛けいただきましたが、2009年に開業された咲間隆裕先生(さくまクリニック院長)からのご紹介ということですね。
咲間先生は、医学部の部活の後輩でもあり医局の後輩でもあります。信頼のおける人物だし、実際にクリニック経営を成功されていますので、彼の紹介なら間違いないだろうと、他のコンサル会社と比較するまでもなく医業総研に決めました。
医院経営塾にも参加されましたが、受講された印象はいかがでしたか。
そろそろまた時間を見つけて、参加しようかと思っていたところです。医院経営塾は、クリニック経営にかかわる多面的な知識を得られるセミナーだと思っています。とくに、働き方改革関連法案の成立で正規・非正規の合理性の認められない待遇差が認められなくなり、加えてコロナ禍の緊張感はいまだ続いています。守るべきは、患者さんの健康もスタッフの安定的な雇用も同等です。人事・労務は直接教えてくれる人は少ないし、理論で理解していても、実際の現場で気づくことがたくさんあります。個人事業の規模でも人的マネジメントは大切ですし、そのためのリーダーシップスキルを高めなくてはならないと思っています。
そのスタッフたちに対して、先生が求める能力は何でしょうか。
当院は、「来てよかったと思っていただけるクリニック」「明るく楽しく、やりがいを感じられるクリニック」「末永く、地域に根差した信頼できるクリニック」の3つを理念として掲げスタートしました。これはCS、ES双方の最大化を意識したメッセージですが、その意味を本気でとことん突き詰めて、行動して欲しいと思っています。経営理念をクリニック開業の原点と位置づけ、常に立ち返ることを意識づけしたいと考えます。看護師にしても同じです。私がすべてを決めて指示するのではなく、どうあるべきかを一緒に考えていこうと。医療従事者としてだけでなく、全人格的にも成長できる職場でありたいと思っています。
そのための日常の具体的な行いを教えてください。
バックヤードに設置したホワイトボードに、問題解決のスピードを示す縦軸、重要度を示す横軸とした二軸の問題点を視覚的に伝えるマトリクスを作り、スタッフには仕事中の気づきの都度その内容を付箋に記して貼ってもらうようにしています。私の患者さんへの医療提供を理解すること、そして、そのために何を優先課題として改善に取り組むべきかなどを抽出し、テーマを絞った話し合いをこまめにやっていこうと思っています。
今回の日本医業総研の開業サポート内容についての忌憚のないご意見をお願いします。
当初の担当コンサルだった親泊さん、そのあとを引き継いだ鈴木さんともに、申し分のないサポートをしていただきました。新規に開業する医師にとっては、すべてが初めてのことなので、分からないことに即対応いただける情報提供に確かなものを感じました。開業にかかわる事項のすべてが網羅されている印象です。社内の教育もあるのでしょうが、やはり数百件の開業成功実績で積み上げてきたノウハウなのだと感じられました。
ながね泌尿器科皮フ科クリニック
院長 長根裕介 先生
院長プロフィール
日本泌尿器科学会 専門医・指導医
身体障害者福祉法(ぼうこう又は直腸機能障害) 認定医
1999年 日本大学医学部 卒業
日本大学医学部附属板橋病院
2000年 駿河台日本大学病院
2001年 銚子市立総合病院
2002年 駿河台日本大学病院
2003年 日本大学医学部附属板橋病院
2005年 都立豊島病院
2006年 横須賀市立市民病院
2007年 日本大学医学部附属練馬光が丘病院
2008年 日本大学附属板橋病院 助教
2010年 日本大学医学部附属練馬光が丘病院 医局長
2012年 埼友クリニック、越谷泌尿器科・内科
2015年 越谷泌尿器科・内科 院長
2019年 春日部市立医療センター、熊谷総合病院非常勤
2021年 ながね泌尿器科皮フ科クリニック 開設